レース中のペースが速かったという意味では、佐藤琢磨はロングビーチで開催されたNTTインディカー・シリーズの1戦でも前戦の勢いを保ち続けたといっていい。なにしろ、デイルコイン・レーシング・ウィズRWRのNo.51 ダラーラ・ホンダは何度もオーバーテイクを繰り返し、スタート時の22番手から一時は13番手まで浮上したのである。ところが、土曜日のプラクティスや予選セッションにくわえ、レースがフィニッシュする1周前にも不運に見舞われた琢磨は、コーナーのアウト側に押し出される格好となってバリアに接触。この結果、悔しい17位でレースを終えることになったのだ。

　ロングビーチの元ウィナーである琢磨が、カリフォルニアの市街地コースを愛して止まないのは当然のことだろう。しかし、土曜日は様々な苦難が琢磨を待ち構えていた。なにしろ、最初のフリープララクティスは23位、2回目は22位、そしてふたつのグループに分けて実施された予選では12位に留まったのである。これは本来、12列目のグリッドからのスタートを意味するが、前戦テキサスでの振る舞いを咎められたデヴリン・デフランチェスコにペナルティが科せられたため、琢磨は22番グリッドからスタートすることとなった。

「正しいバランスにするのが本当に難しかったうえに、スピードも不十分でした」と琢磨。「週末の幕開けは非常に困難なもので、ロングビーチでは過去最悪の予選結果となりました。メカニカルトラブルなどのように、なにか問題があったわけではありませんが、自分たちのスピードについてはとにかく納得がいきませんでした。僕たちは実験的なことをいくつも試しましたが、なにをやっても状況は改善されなかったのです」

　日曜日の朝に行われたウォームアップでもNo.51は22番手にとどまっていたが、ここでは一筋の光明が差し込んだ。「クルマの感触がよくなって、よりポジティブに思えました。トラフィックに巻き込まれて本来のペースでは走行できなかったうえ、何人かのドライバーがプッシュ・トゥ・パスを使ったのに対し、僕は使いませんでした。しかも、全ドライバーのうちの半数近くはレッドタイヤ（ソフトなオルタネート・タイヤ）を履いていたのに、僕はレースで装着するもりだったので、ウォームアップでは使いませんでした。ロングビーチではレッドタイヤが有利で、今年はそのスペックが新しくなりました。ただし、僕がレース中に使ったのは、結果的に1セットだけでした」

　事実、レース中のどの時点においても、レッドタイヤを装着したチームはいずれも苦しんでいた。いっぽう、琢磨を含む後方グリッドに並んだドライバーの多くは、スタートで硬めのブラックタイヤを履いていた。これは、インディカー・レースのリスタートではしばしば見られることだが、スタートでよくあることとはいえない。「実質的に、ロングビーチでは最終ヘアピンよりも後方からスタートすることになります。まともに整列できるのは最初の4列目か5列目まで。したがって大きな動きはありませんでしたが、イエローのあとでチャンスがやってきました」

　琢磨がいうところのイエローが提示されたのは、ダルトン・ケレットが1コーナーでクラッシュしたのが原因だった。やがてグリーンが振り下ろされると、琢磨は直後にカラム・イロットをパス。続いてクリスチャン・ランドガードを仕留めると、チームメイトのデイヴィド・マルクスを攻略して19番手となった。さらにライバルたちが最初のピットストップを行なったため、琢磨は9番手まで浮上。そこからピットに駆け込んだ琢磨はレッドタイヤに履き替えた。「何人かのドライバーは急激なデグラデーションに見舞われていました。楽しかったですよ。僕はレースに向けてダウンフォースを削っていたので、1周のラップタイムはそれほどでもありませんでしたが、トップスピードが速かったのでオーバーテイクができるうえ、ポジションも守ることができました。ロングビーチではこれがとても効果的なことを、僕はもともと知っていたのです。こうして僕は、レッドタイヤを履いたドライバーに次第に迫っていきました。しかも、ブラックタイヤを履いたほかのドライバーと比べても、タイヤマネージメントはうまくいっていました」

　No.51のクルーが作業を素早く終わらせたこともあり、ピットストップ後の琢磨は14番手につけていた。しかし、レッドタイヤに履き替えた直後によかった琢磨のペースは、やがて伸び悩むようになり、フェリックス・ローゼンクヴィストに対しては防御する術もなく攻略されてしまう。さらに、2ストップ作戦のピットウィンドウまで琢磨は周回を続けようとしたものの、そのラップタイムは急激に落ち込んでいった。「ピットストップでライバルたちをオーバーカットできたうえ、ブラックタイヤを履いたほかのドライバーに比べてデグラデーションが小さく、力強いペースで走行することができました。これにはとても勇気づけられました。続いてレッドタイヤに履き替えることになっていたので、ペースの点でも自信がありました。残る2スティントはレッドタイヤで走り続け、そのままフィニッシュする作戦だったのです。けれども、想定していたよりもレッドタイヤのデグラデーションは激しく、これを補正するために設けられたコクピットのツールをどう調整しても、それ以上は速く走れない状況となりました。やがてラップタイムは1秒から1秒半ほども落ち込むことになったので、とても苦しい展開でした。ブラックタイヤを履くフェリックスのペースは速く、僕を追い越していきました。この結果、僕はブラックタイヤを再び履くことになったのです」

　2回目のピットストップを終えた直後は14番手に留まっていた琢磨は、ファウンテン・ターンと呼ばれる3コーナーでサイモン・パジェノーのアタックにさらされる。ただし、フランス人ドライバーがすり抜けられるほどコース幅は広くなく、パジェノーはここで接触。スピンしてフラワーガーデン脇にマシーンを停めることになり、ここで2回目のイエローフラッグが提示された。「ターン1とターン2では相手のためにスペースを残しておくことができましたが、ファウンテンをサイド・バイ・サイドのままレーシングスピードでクリアするのは不可能です。半車身ほど後方を走っていたサイモンに対してドアを閉じるつもりはなかったものの、あそこは本当に狭い場所です。しかも、彼はコーナーを曲がりきれず、僕たちは接触しました。彼は決してハッピーではなかったはずですが、インディカーは僕にペナルティを科さないと決めています。いっぽうで、僕はアンダーウィング、サイドポッド、フロアなどにダメージを負い、200ポンド（約91kg）のダウンフォースを失いました。これがパフォーマンスの低下を招くのは当然のことで、僕のペースが落ち込むことになる理由のひとつとなりました」

　続くリスタートで、琢磨はライナス・ヴィーケイの追撃を受けることになる。「グリーンが提示されると、ヘアピンの進入でヴィーケイがサイド・バイ・サイドに持ち込もうとしている様子が見えました。もしもそうなると、事実上、ターンするのは困難です。僕はできるだけアグレッシブにアウトサイドを回り込もうとしました。けれども、彼は曲がりきれず、僕たちは絡み合うようにして接触。結果的に、彼のコーナリングを助ける格好となりました！ しかも、集団はすでに通り過ぎていました」

　それでもマーカス・エリクソンのスピンにより琢磨は13番手に駒を進めたが、今度はマルクスがジミー・ジョンソンに接触してイエローが提示。このイエロー中にヴィーケイはピットストップを行なってレッドタイヤに履き替えると、フィニッシュまでに残されたスプリントレースに備えた。グリーンになってからチェッカードが振り下ろされるまで、わずか6周しかない。ここでヴィーケイはジャック・ハーヴェイとスコット・マクラフリンを素早くパス。琢磨を射程距離に捉えた。85周のレースの、迎えて84周目、オランダ人ドライバーはターン8で琢磨のインサイドに飛び込んだ……。

「このとき僕が履いていたのは、すでに25周走ったプライム・タイヤだったので、パフォーマンスの差は圧倒的です。基本的に、僕がポジションを守りきることはできません。そこで、僕は安全に抜かれることを期待していたのですが、彼はターン8でインに飛び込むと決めたようです。ここは入り口こそ広いものの、コークボトルのように奥にいくに従って狭くなります。そもそもサイド・バイ・サイドで通過するのは不可能で、しかもアウト側にいた僕はマーブルに乗ってしまい、コーナーを曲がりきれませんでした。マシーンへのダメージは実質的になかったものの、このときの衝撃が引き金となって、ギアをニュートラルに入れることもできなくなります。このためエンジンはストール。再始動させるにはレスキューの到着を待たなければいけませんでした」

　こうして琢磨のレースは幕を閉じた。次のレースも、かつて琢磨が優勝したサーキット——バーバー・モータースポーツ・パーク——での開催だが、その前に重要なテストに臨むことになる。「来週、インディアナポリス・モーター・スピードウェイのオーバルで僕が楽しみにしていたオープンテストが行なわれるので、これが終わってからバーバー・モータースポーツ・パークに向かいます。さらにインディGP、続いてシーズン最大のイベント、インディ500に挑みます。きっと、楽しくて、エキサイティングで、忙しい日々になるでしょう！」

written by Marcus Simmons

2022年4月10日、カリフォルニア州ロングビーチ発。

本日、行なわれたインディカー・シリーズ第3戦ロングビーチの決勝において、デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRの佐藤琢磨は22番グリッドからスタートしたのち、力強く追い上げ、レース後半には13番手を走行していましたが、他のドライバーとバトル中に路面上のマーブルに乗り上げたため、琢磨はタイヤバリアに接触してリタイアに終わりました。

15周目に15番手まで挽回した琢磨は、29周目に9番手となって最初のピットストップを実施。19番手でコースに復帰すると、第2スティントの大半を14番手として走行しました。続いて56周目に2回目のピットストップを行なうと、13番手まで追い上げて周回を重ねていましたが、追い上げてきたライナス･ヴィーキーとポジション争いをしていたところ、ターン8でマーブルに乗り上げてコントロールを失い、タイヤバリアと接触してリタイアに追い込まれました。


佐藤琢磨のコメント

「ロングビーチに戻ってくると、いつでも最高の気分を味わえます。今回は苦しい週末となり、予選では良好なバランスを見つけられないまま、後方グリッドからスタートすることになりました。ただし、僕たちのレースカーは強力で、レース中にライバルたちを追い抜くと、ポジションを上げていきました。これは本当に楽しかったです！　残り2周の時点で13番手を走行していたので、とてもいい展開でした。ところが、続いてイエローが出て、一部のドライバーがフレッシュなタイヤに交換。一方で、僕は25周も走行したタイヤを履いていました。ここでライナス･ヴィーキーがとても速いペースで追いつき、僕はポジションを守ろうとしながらターン8に進入しました。彼がインサイドで僕がアウトサイドでした。ここで2人ともアウト側にラインが膨らみましたが、僕は運悪くマーブルに乗ってしまい、タイヤバリアに接触しました。せっかくここまで追い上げられたので、とても残念でした。ただし、少なくとも僕たちは、セントピーターズバーグのときと同じように、最後の最後まで力強く走ることができました。デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRとともに挑む初のロードコースとなるバーバーのレースを楽しみにしています」

（デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのプレスリリースより）

2022年4月9日、カリフォルニア州ロングビーチ発。
本日、行なわれたインディカー・シリーズ第3戦ロングビーチの予選において、デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRの佐藤琢磨はグループ1で12番手のタイムをマーク。明日の決勝レースに23番グリッドから臨むことが決まりました。

No.51 Nurtec ODT ホンダに乗る琢磨は期待された速さを発揮することができず、プラクティス1を23番手、プラクティス2を22番手で終えてから予選のセグメント1に出走。ここで1分7秒1001のタイムを記録しました。

明日は午前中にウォームアップを行なった後、現地時間の12時45分に決勝レースのスタートが切られる予定です。


佐藤琢磨のコメント

「プラクティスでは良好なバランスとスピードを手に入れようとしましたが、残念ながら少し苦しんでいます。予選ではタイヤの空気圧が理想的な値になっていなかったものの、明日のウォームアップでは状況を改善する自信があります。これがうまくいけば、日曜日の決勝でもいい戦いができるはずです。僕たちはセントピーターズバーグでそれを実現しているので、ここでも同じことができると信じています」

（デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのプレスリリースより）