デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのダラーラ・ホンダに乗る佐藤琢磨はNTTインディカー・シリーズのロードアメリカ戦を15位で終えた。これ自体はさほど目覚ましい結果とはいえないが、琢磨は決勝中に何度もオーバーテイクを演じ、素晴らしいレースを戦った。皮肉にも、これは一般的な戦略で走りきった結果であり、もしも敵の裏をかく戦略を選んでいたら、もっといい成績を収める可能性もあった。

　ウィスコンシン州のダイナミックなサーキットは誰からも愛されているが、金曜日に行なわれた最初のプラクティスを19番手で終えた琢磨にとっては、トリッキーな1面もあった。「昨年、DCRはここロードアメリカでとてもコンペティティブだったので、僕たちは大いに期待していました」と琢磨。「ところが、今シーズンはタイヤのコンストラクションが変わり、コンパウンドもいくぶん見直されたせいか、どこのサーキットでも勢力図ががらりと変わることが多いようです。これによってバランスがシフトしたため、昨年と同じバランスではうまくいかず、ソフトなレッド・タイヤではペースが伸び悩むことになりました」

　この週末、インディカーはいつもと異なり、金曜日の2回目のプラクティスではなく1回目のプラクティスでレッド・タイヤを使うことを義務づけた。「プライマリー・タイヤは悪くありませんでした。ロングランになるほどコンペティティブになりましたが、ソフト・タイヤではいいタイムが出ませんでした。しかも、プライム・タイヤでさえ、速いペースで走れるのは2周だけで、その後はペースが落ちていきます。したがって、レースウィークの初日は『厳しい戦いになりそうだ』と感じていました」

　その予想はあたり、土曜日の朝に行なわれた2回目のセッションでNo.51は22番手と苦戦する。「予選直前はプライム・タイヤしか使っていなかったので、ややトリッキーな状況でした。バランスに関してはいくぶん改善されていましたが、ペースについてはまだほんの少しだけ足りない状況でした」

　予選の第1セグメントで琢磨は10番手となったため、第2セグメント以降に進出することはできず、19番グリッドからスタートすることが決まる。「この結果には本当に納得がいきませんでした。プライム・タイヤを履いているときは3番手となかなかコンペティティブで、バランスも僕の好みでした。ところが、新品のレッド・タイヤに履き替えても、タイムはまったく変わらなかったのです！ 　ほとんどのドライバーは、少なくともコンマ7秒はタイムを短縮していたのに、僕にはそれができなかったのです。本当に悔しく思いました」

　続いて行なわれたウォームアップ・セッションでも琢磨は19番手だったが、それでも明るい兆しが見え始めていた。「どちらのタイヤでも正しいバランスになるようにアジャストしようとしましたが、セッションは赤旗で中断されてしまいます。このため、速いラップタイムでまとめ上げることはできませんでしたが、それでも、より自信が抱けるようになるとともに満足していました。僕たちは進化を遂げていて、悪くない流れのように思えました。予選で第2セグメント以降に進めなかったため、残念ながら僕たちにはタイヤがたっぷりとありました。新品のレッド・タイヤが2セット、同じく新品のプライム・タイヤが3セット、手元に残っていたのです！ けれども、ロードアメリカはコースの全長が際立って長いので、戦略面での選択肢はあまり多くありません。たとえ燃料をセーブしても、1周余計に走るのが精一杯なので、できることは極めて限られているのです」

　琢磨はプライム・タイヤでスタート。ところが今回は、27名の全エントリー中、実に15人が琢磨と同じプライム・タイヤを選択した。「これには驚きました！ なにしろ、僕の周りのドライバーは、誰もがプライム・タイヤを履いていたのです」 琢磨はスタートで順位を上げたものの、最初のスティントだけで実に3回もイエロー・コーションが提示される展開となった。オープニングラップで琢磨はウィル・パワー、エリオ・カストロネヴェス、コノー・ダリーをパスして16番手に浮上すると、ジミー・ジョンソンのアクシデントによりこの日、最初のイエローとなる。続いてアレックス・パロウの事故が原因で2度目のイエローが提示され、ライナス・ヴィーケイはトラブルに見舞われる。これで琢磨は14番手。この後、琢磨はクリスチャン・ルンガーをパスして13番手となるが、続いてパワーとデヴリン・デフランチェスコがクラッシュして、またもやイエローとなる。やがてグリーンが提示されたとき、フェリックス・ローゼンクヴィストがピットストップした関係で琢磨は12番手へと駒を進める。さらにはチームメイトのデイヴド・マルケスらとともに、勇敢にも3ワイドを演じてみせたが、これは成功しなかった。やがて、ライバルが次々とピットストップ。琢磨は首位となって1ラップ走行すると、17周目に最初のピットストップを行なった。

「スタートはうまくいきました。いつもは、とても楽しいサーキットです。長いストレートがあって、高速コーナーがふたつあって、ストレートがもう1本続いたあと、ハードブレーキングでターン5に進入します。通常、ここではいくつかポジションを上げられます。デイヴィッドはチームメイトなので、彼とは慎重に戦いました。ここで僕たちは3ワイドになりましたが、彼はうまく切り抜けたと思います！ サイド・バイ・サイドやブレーキング競争がたくさんありました。こういうレースが、僕は大好きです」

「例年、ロードアメリカのレースでイエローがたくさん出ることはありませんが、今年はまるで状況が違っていました。僕は、すでに順位を上げていたので、ピットに飛び込んで通常のフューエル・ウィンドウから外れ、それによってポジションを落とすリスクを負うわけにはいきません。トップ10圏内に入ると、それ以上のことをするのは難しくなります。基本的にはトップを追随する戦略を選ぶことになるので、奇策を講じるチャンスは失われます。何人かのドライバーはピットに飛び込む作戦を成功させていましたが、その時点でこの判断を下すのは困難でした」

　このピットストップで、琢磨は新品のプライム・タイヤに交換すると、第3スティントに向けてはレッド・タイヤにスイッチ。最後はブラック・タイヤに戻してフィニッシュを目指した。レッド・タイヤを履くタイミングをレース終盤としたことについて、琢磨は「ロードアメリカはタイヤ・デグラデーションが激しいので、路面のコンディションができるだけよくなってからのほうが有利になります。ところが、この日のウィナーはスタートでレッド・タイヤを履いていました。彼はコーションを活用してスティントを短縮したのです」

「僕はコース上でタイムを稼ぎ、何人かのドライバーをオーバーテイクしましたが、ピットストップでタイムを失いました。ピットで3秒ないし4秒をロスすると、たとえコース上でコンマ1秒速く走っても、ロスを取り返すには30ラップ以上が必要になります。15位という結果は不本意なものですが、ほかに僕たちにできることはありませんでした。僕たちは何台かをオーバーテイクしましたが、自分たち自身の力でトップ10に入る速さはありませんでした。これはとても残念なことです。それでも、この日は素晴らしく気持ちのいい1日でした。きれいな青空が広がっていて、木陰はやや涼しかったので、観客の皆さんにとっては最高の1日だったと思います」

　ロードアメリカ戦が終わると、3週間のブレイクを挟んで、別のクラシック・ロードコースでレースが開催されることになる。ミドオハイオだ。琢磨は、ロードアメリカ後の火曜日に、ここでテストを行なったほか、アイオワ・スピードウェイでもテストを実施する。「引き続き忙しい日々が続きます。メカニックたちにとってはとても大変で、ロードアメリカでマシーンをコンバートしたうえで、7、8時間をかけてミドオハイオに移動することになります。続いて僕はアイオワのテストに臨みます。なぜなら、シーズン前のプリシーズンテストでは、これらのサーキットを走っていないからです。開幕前にテストを行なったのは2月下旬のセブリングだけ。なにしろ、それ以外のほとんどのコースは、テストするにはあまりに寒かったのです。したがって、シーズン後半に向けて、これからたくさんの準備を行なうことになります。いまは、ミドオハイオでいい週末を迎えられることを期待しています」

written by Marcus Simmons

2022年6月12日、ウィスコンシン州エルクハートレイク発。

本日、ロードアメリカで行なわれたソンシオGPの決勝において、デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのNo.51 Nurtec ODT ホンダを駆る佐藤琢磨は15位でレースを完走しました。

19番グリッドからスタートした琢磨は、オープニングラップにポジションを3つ上げて16番手へと浮上します。その後も順調に挽回し、10周目には12番手となりました。続いて琢磨は17周目に最初のピットストップを実施。ここで一旦は順位を落としたものの、他のドライバーとは異なるピットサイクルで周回を重ねた琢磨は、2回目のピットストップを行なう直前の30周目には6番手までポジションを上げました。最後のピットストップを終えると17番手で走行。最終スティントでは鮮やかなバトルも見せながら、15位でチェッカードフラッグを受けました。

次戦ミドオハイオは7月3日に開催されます。

佐藤琢磨のコメント
「エキサイティングなレースでした。スタートで何台かのマシーンをオーバーテイクし、その後もいくつか順位を上げましたが、最初のピットストップでポジションを落としてしまい、これが大きな痛手となりました。残念ながらイエロー中にポジションを上げることもできず、ひとつのピットサイクルを終えると元のポジションに戻っていました。全体的にいって苦しいレースでしたが、リスタートで僕たちは本当に力強く戦い、サイド・バイ・サイドのバトルを何度か楽しみました。15位という最終的な成績は僕たちの期待に及ばないものでしたが、チームとしての強さを示すことができたと思っています」

（デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのプレスリリースより）

2022年6月11日、ウィスコンシン州エルクハートレイク発。

本日、ロードアメリカで開催されたソンシオGPの予選において、デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのNo.51 Nurtec ODT ホンダを駆る佐藤琢磨は、第1グループから臨んだ第1セグメントで10番手タイムをマークし、19番グリッドを獲得しました。

プライマリー・タイヤで予選セッションを走り始めた琢磨は、計測2周目に1分45秒7045を記録し、この時点で第1グループの3番手につけました。その後、琢磨はオルタナティブ・タイヤに履き替えますが、ラップタイムを更新することができず、第1グループの10番手に後退。そのまま予選を終えました。

明日は現地時間のAM11:55に決勝レースのスタートが切られます。

佐藤琢磨のコメント
「今日はいい部分と悪い部分の両面がある1日となりました。僕たちのマシーンは、プライマリー・タイヤを履いていると好調でしたが、予選で重要となるレッド・タイヤではその本領を引き出すことができませんでした。したがってレッド・タイヤで好タイムを記録することができず、第2セグメントに進出できませんでした。今日は変わりやすい天気でしたが、最終プラクティスではいくつかのメニューを試せたので、クルマの状態はよくなったはずです。予選より決勝のほうがよくなると捉えているので、明日のレースでいい結果が残せることを期待しています。きっと、面白い戦いになりますよ」

（デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのプレスリリースより）