うねるようなコーナーが続くミドオハイオで開催されたNTTインディカー・シリーズの一戦を、佐藤琢磨は14位で戦い終えた。デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのNo.51ダラーラ・ホンダは、最終的にトップ10が期待できそうなほどポジションを上げていたものの、軽いコースオフを喫したために集団の最後方まで後退してしまう。しかし、琢磨はここから何度もオーバーテイクを繰り返すなど見事なレースを演じて失地を取り返した。このトリッキーなコースで、これはそう簡単にできることではない。
「ちょっと複雑な心境です」と琢磨。「必ずしも思い出したくなるような週末ではありません。僕たちのペースはよかったのですが、それをレースの結果に結びつけることができなかったので、やや落胆しています」

　ロード・アメリカのレースが終わると、チームは直ちにレキシントン近郊のレーシングコースでのテストに臨んだが、このとき参加したのはDCR1チームだけという残念な状況となる。「ほかにもテストへの参加を希望するチームはありましたが、結局、実現できなかったようです。おまけに天候もトリッキーでした。前の晩はハリケーンに襲われ、翌朝のコースは泥と落ち葉に覆われていました。コースコンディションはチョイ濡れで、通常、ミドオハイオでは路面の状態が急速に改善されていくものですが、たとえコースの98％がドライになっても、タイムは普段の7秒落ちという状態でした。それでも、最終的には充実したテストとなりました。チームは僕とデイヴィド・マルケスのふたりを走らせ、2台のマシーンに異なるフィロソフィーのセッティングを施すことで、レースウィークエンドはどちらのセッティングが好ましいかの判断が下せるようになったのです」

　金曜日のプラクティス、琢磨は中団グループを力強く走って15番手につけたが、土曜日のセッションでは22番手に後退してしまう。「いい感触を掴むこともできなければ、いいスピードも手に入りませんでした。最初のプラクティスは比較的悪くありませんでしたが、プラクティス2になるとそれまでよりもドライブしにくくなり、予選前には別のセッティングを試す決断を下すこととなります。けれども、インディカー・シリーズは恐ろしいほどの接戦なので、本来であれば細部の煮つめを行なわなければいけない状況でした。ところが、僕たちはまだ完全に感触を掴み切れていないセットアップで挑み、順位を上げられないまま予選を終えたので、いささか残念でした。セッションの序盤はブラック・タイヤで5番手につけていましたが、レッド・タイヤを履くと手も足も出ない状態となったのです」

　結局、琢磨はセグメント1で予選グループ内の10番手となり、19番グリッドからレースに挑むことが決まる。ところが、これもしばしば起きることながら、レース前のウォームアップで琢磨の競争力は一気に改善され、なんと10番手をマーク。このため、決勝にはファイアストンのレッド・タイヤを装着して臨むことが決まる。「ウォームアップで、マシーンの状態は大きく改善されました。19番グリッドからのスタートであれば、プライム・タイヤで走り出してできるだけ多く周回を重ね、残りを2セットのレッド・タイヤで走りきるのが定石です。けれども、このコースはオーバーテイクが極めて難しく、往々にしてコース上の順位を競うレースとなるうえ、イエローが出る回数も多くはないので、レッド・タイヤでスタートするという極めてアグレッシブな戦略で戦うことにしました。そしてレース中盤のスティントはブラック・タイヤで走り、どちらがいいかを比較するのです」

　決勝レースで琢磨は上々のスタートを切った。最初の数周でクリスチャン・ルンガー、グレアム・レイホール、ロメイン・グロージャンらを仕留めると、長年の友人であるウィル・パワーと接触したものの、これもなんとか切り抜け、16番手へと駒を進めたのだ。「スタートはとてもうまくいきました。ターン4、5、6 、7、8で僕たちは2ワイドになり、3台を追い抜くなど、とてもいい展開でした。ウィルは楽観的過ぎました。僕のミラーに黒いマシーンが映し出されたとき、『ムリ、それはムリだ！』と思いました。なんとかして彼を避けようとしましたが、十分なスペースがなく、彼も避けきれずにスピンを喫しました」

　ほどなくフェリックス・ローゼンクヴィストのマシーンにトラブルが起きてイエローが出ると、琢磨は15番手に浮上。このときはピットストップ・ウィンドウにアプローチにしようとしていた。さらに前方を走っていたドライバーがピットストップすると、琢磨は7番手へと躍進。続いて最初のピットストップを行なった。やがて、ひととおりピットストップが終わると、琢磨は17番手まで後退していたが、さらにスティントの前半でイエローが何度か提示されると、琢磨はルンガーをオーバーテイク。これで16番手となったが、2回目のピットストップが近づいてきたころに琢磨はターン9でコースアウトを喫し、24番手へと転落してしまう。「なにもかも順調で、僕のペースも自信を抱かせてくれました。ラップタイムは満足のいくもので、ピットストップのタイミングをできるだけ引き伸ばすことにします。最初のピットストップでは3つか4つほどポジションを落としました。フューエル・リグにトラブルを抱えていて、素早く引き抜くことができなかったのです。このため、早めにピットストップを行なってレッド・タイヤに履き替えたドライバーに抜かされました。そこから僕の順位は、いったりきたりを繰り返すことになります。僕はレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングの2台とバトルを演じ、すべてをコントロール下に置いているように思えましたが、ブレーキングのスタビリティに問題を抱えるようになります。そしてターン9でコントロールを失いました。僕は、なんとかして体勢を立て直そうとしましたが、コースからはみ出し、大きく順位をおとしてしまいます。あのトラブルさえなければ、10位でフィニッシュしたとしても不思議ではなかったでしょう」

　ミドオハイオではよくあるように、この後もイエローが続いた。最後のスティント中にはさらに2回、イエローが提示され、これによって琢磨は先行するドライバーに追いつくチャンスを得る。そして、まずはジミー・ジョンソンとデヴリン・デフランチェスコをパス。さらにレース終盤には10番手のサイモン・パジェノーを先頭にコノー・デイリーまで続く列に追いついたが、結果的に、これ以上、順位を上げるチャンスは巡ってこなかった。「イエローのおかげで前を走るドライバーとのギャップを縮めることができました。僕の目の前ではたくさんのことが起きていました。最終的に、僕は14番手まで追い上げましたが、この成績にはとてもガッカリしています。最後のスティントには満足していません。バランスに問題を抱えていたからです。直ちにグリップが失われたように感じられ、レッド・タイヤが機能しなくなります。この時点でもプッシュ・トゥ・パスはまだ100秒近く残っていましたが、それでもコノーに仕掛けることはできませんでした。本当に残念です。レース前半はとてもコンペティティブだったのに、この頃には追いついて走ることさえ難しくなっていたのですから」

　ここから先は長年開催されてきたレースが続く。まずは、コロナ禍が明けてようやく実施されることになったトロントの市街地コース、そしてアイオワ・スピードウェイを目指すことになる。「トロントには、もう3年も行っていないので、とても楽しみにしています。街もコースも素晴らしく、レース・ファンの方々も最高です。そこから僕たちは4週連続開催のレースという常識外れの1ヶ月を迎えるので、かなり忙しい夏になるでしょう。アイオワではとてもいいテストができたので、こちらも楽しみです。本当に、いい夏になることを期待しています」

written by Marcus Simmons

2022年7月3日、オハイオ州レキシントン発。
本日、ミドオハイオで開催されたホンダ・インディ200アット・ミドオハイオの決勝において、デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのNo.51 Nurtec ODT ホンダを駆る佐藤琢磨は、80ラップのレース中にコース上で11台を抜き、14位でフィニッシュしました。

スタート直後にいくつか順位を上げた琢磨は、グリッドポジションの19番手から17番手に駒を進めて周回を重ねていきます。最初のスティントの大半は15番手につけていましたが、28周目に最初のピットストップを行なう直前には7番手となっていました。2回目のスティントを16番手で走行していたとき、琢磨は不運にもコースオフを喫し、24番手となってレースを再開しました。そして52周目に最後のピットストップを終えると、再びポジションを上げていきます。さらに63周目のリスタートでは15番手に浮上。レースが残り10周となったときにはオーバテイクによって14番手をもぎ取り、チェッカードフラッグを受けました。

次戦は7月17日にトロントで開催されます。

佐藤琢磨のコメント
「ミドオハイオは悔しいレースとなりました。スタートではレッドタイヤを利用していくつかポジションを上げました。リスタートもうまくいき、トップ10圏内に近づいていきます。ところが、真ん中のスティント中に走行ラインが少しアウトに膨らみ、集団の後方に後退してしまいました。今日、No.51のメカニックたちはいい働きをしてくれたと思います。もう少し上の順位でフィニッシュできなかったのは残念でしたが、ミドオハイオのレースで僕たちはたくさんのことを学びました。次のトロントは、実に3年振りの開催なので、とても楽しみです。引き続きプッシュしていい成績を収めたいと思っています」

（デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのプレスリリースより）

2022年7月2日、オハイオ州レキシントン発。
本日、ミドオハイオで開催されたホンダ・インディ200アット・ミドオハイオの予選において、デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのNo.51 Nurtec ODT ホンダを駆る佐藤琢磨は、第1グループから臨んだ第1セグメントで10番手タイムをマークし、19番グリッドを獲得しました。

プライマリー・タイヤで予選セッションを走り始めた琢磨は、当初5番手につけており、6周目には1分7秒4645のベストラップをマークします。このタイムにより、最終的にセッションを10番手で終えたため、琢磨は翌日のレースに19番グリッドから挑むことが決まりました。

明日は現地時間の12時53分に決勝レースのグリーンフラッグが振られる予定です。

佐藤琢磨のコメント
「今日の予選はややフラストレーションが募ものでした。プラクティスではいろいろなものがひとつにまとまらず、予選に向けてクルマを変更することになりましたが、結果的にはコンディションにあわせきれなかったように思います。デイヴィド（マルカス）は予選でいい働きをしてトップ10に入りましたが、僕は第2セグメントに進出できなかったので、やや残念です。今回もとても僅差の戦いで、明日はウォームアップも予定されています。明日も全力を尽くすので、いいレースになることを期待しています」

（デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのプレスリリースより）