NTTインディカー・シリーズのアイオワ戦はダブルヘッダーでの開催。ここのところ不運続きで、前日のレースもフロントのグリップ不足で21位という不本意な結果に終わった佐藤琢磨は、ダブルヘッダーの2戦目で久々のトップ10に返り咲いた。10位という結果も立派なものだが、もしもデイル・コイン・レーシング・ウィズRWRが戦略面でもう少しだけ幸運に恵まれていたら、さらに上位も狙えていただろう。

　このレースには、トロントの悪夢を忘れさせてくれる効果もあった。このとき琢磨はオープニングラップのターン2でウォールと接触。No.51のマシーンに致命的なダメージを負ってしまったのだ。

　トロントでのリタイアは、琢磨をひどく落胆させた。なにしろ、新型コロナ・ウィルス感染症の影響により、カナダの風光明媚な街でレースが開催されるのは2019年以来のことだったのだ。「トロントに戻ってこられることを、本当に楽しみにしていました」と琢磨。「気がつけば、パンデミックになってもう3年になります。ここは、熱狂的なレースファンがたくさんいる素敵な街です。その意味では、F1時代に訪れたモントリオールとよく似ています。ここ数年、トロントでは励みになるようなレースを経験していました。2019年はいつくかの問題もありましたが、2018年は予選と決勝を4位と5位で終えるなど、とても好調でした。このため、トロントにはとてもいい印象を抱いていて、レースウィークを楽しみにしていました」

「けれども、物事は順調には進みませんでした。プラクティスで問題を抱え、第2セッションではこれがきっかけとなって（アクシデントが起こり）ダメージを負ってしまいます。メカニックたちの素晴らしい働きでマシーンは修復されましたが、時間が不十分だったので、完全な状態ではありませんでした。それでも予選が始まったので、僕はコクピットに飛び乗りました！ それ自体は構いませんが、マシーンの速さが不足していて、第2セグメントには進出できませんでした」

　琢磨は19番グリッドからスタートしたが、レースは長く続かなかった。「ターン1の入り口はひどく混雑していました。スタート・フィニッシュ・ラインで、僕はいいスタートを切ります。ターン1にはサイモン・パジェノーとサイド・バイ・サイドで進入しましたが、この時点で、すでに3ワイドか4ワイドになっていて、しかも僕はアウト側だったので、スロットルを緩めました。これで勢いを失った僕の横を、パト・オワードが激しく通り過ぎていったうえ、そのさらにイン側にアレックス・パロウがとてもアグレッシブに突っ込んでいきました。結果的に僕たちはターン2で3ワイドとなり、またもやスロットルペダルを戻しましたが、なんらかの理由でパトがアウト側にはらみ、続いて僕に接触。その直後に僕はコースアウトしてウォールと接触しました。コーナーをたったふたつ抜けただけでレースを終えるなんて、本当にやりきれない気持ちでした」

　これに続いて開催されたアイオワ・スピードウェイで、チームは事前にテストを行なっていた。「とても勇気づけられる内容で、たくさんのメニューを消化できました。各チームが別々の日にテストを行ないましたが、自分たちがかなりコンペティティブであることは推測できました。マシーンの印象も、とても良好でした。実際のタイムは3番手でしたが、マシーンの純粋な速さでいってもトップ5にいることは間違いありませんでした」

　ただし、こうしたパフォーマンスはプラクティスに反映されず、No.51は15番手に終わる。「テストのときに比べてスタビリティが不十分でした。メカニックたちは、翌朝までにスプリングが間違っていたことに気づきます。これはやや残念でした。なぜなら、これまで行なってきたプラクティスがすべて無駄になってしまうからです。いっぽうでポジティブに受け止めれば、これでなにが起きていたのか明らかになったので、テストが終了したときの状態にマシーンを合わせ込み、そこからコンディションにあわせて微調整することができました。ただし、そのまま予選を迎えたので、僕たちはマシーンのことを把握し切れていない状態でアタックすることになります。これは、とてもチャレンジングなことです」

　2周連続でアタックする予選において、琢磨は1ラップ目に9番手のタイムをマーク（これによりレース1のグリッドが決まる）。そして2ラップ目のタイムは5番手だった（これでレース2のグリッドを決定するが、エンジン交換を行なったコルトン・ハータがペナルティを受けたため、琢磨は4番グリッドからのスタートとなった）。「楽しかったです。でも、マシーンはひどくボトミングしていました。それでも思い切っていくしかありませんが、それと同時に慎重に走らなければいけません。というのも、もしもなにかあってマシーンにダメージを負わせると、最初のレースまでの時間がごく限られているので、マシーンの修復ができないからです。ラップ1は、マシーンの反応を見極める必要があったため、その走りは100％ではなかったものの、それでもペースは悪くありませんでした。2ラップ目はほぼマキシマム・アタックをして5番手となります。1ラップ目よりもだいぶよくなったので、僕はこの結果に満足しました」

　5列目グリッドからスタートした土曜日のレースで、琢磨は大きくポジションを落とすことになる。徐々に集団の後方へと下がっていくと、最初のスティントが終わる前には周回遅れとなり、その後も挽回のチャンスはやってこなかった。「予選後はパルクフェルメのような扱いとなり、タイヤ空気圧とフロントウィングの調整以外、一切の作業が禁止されたのです。僕はレースを楽しみにしていましたが、スタートするとどんどん順位を下げていきました。正しいバランスにすることができず、まるでグリップしなかったのです。スタートでは予選で履いたタイヤを使わなければなりませんが、2スティント目からはタイヤを交換してフロントウィングを調整できるので、状況はよくなると期待していました。ところが、ここでも問題は解決されず、それは3スティント目も変わりませんでした。とにかくアンダーステアがひどいうえ、トラクション不足にも苦しめられたのです。ほかのドライバーがインサイドからもアウトサイドからもオーバーテイクしていくのを、僕は信じられないような思いで眺めていました」

　この問題は、混乱した状況のなかで解決されることになる。「不運にも、僕はサイモンと軽く接触してしまいます。これは僕のミスで、レース後には彼に謝りました。幸いにも、これによって彼がさらなる苦境に立たされることはありませんでしたが、この日の彼も不運続きだったのです。僕たちは最終スティントに向けてフロントウィングを交換しましたが、すると驚いたことに、僕はコース上でもっとも速いドライバーのひとりとなったのです！ マシーンの感触は、本当に信じられないくらい大きく変わりました。それまでに比べて、ほぼ1秒速くなったのです。燃料は満タンだったので、他のドライバーとダイレクトな比較が可能でしたが、それでも僕のペースは、（このレースのウィナーとなる）ジョセフ・ニューガーデンと肩を並べていました。もしもスタートからこの状況だったらと、思わずにはいられませんでした」

　これでチームは、日曜日のレースに向けて大いに勇気づけられることとなる。決勝が始まると、琢磨はすぐにコノー・ダリーをパスして3番手に浮上。続いてオワードに先行されて4番手になると、ピットストップが始まるまで、このポジションを守り通した。No.51は長く周回を重ねると、他のドライバーがピットストップを行なうなか、3ラップにわたって首位を走行してからピットに飛び込んだものの、残念ながら長く走り続けたせいで、コースに復帰したときには16番手となっていた。「ショートオーバルで長いスティントをこなすことには、いい面と悪い面の両方があります。アンダーカットがアドバンテージとなるのは明らかですが、そのいっぽうで、トップがピットストップする前にイエローが出ると周回遅れになり、すべてが終わってしまう危険性をはらんでいます。僕は4番手をずっと走っていて、その後、集団から離れたときには5番手でした。やがてトップのドライバーがピットストップを行なったので、僕もピットインすべきだと思いました。なにしろ、長く走り続けていても、得られるものはなにもありませんので。イエローになる恐れはあって、それは保証されたも同然ですが、ひとたびレースリーダーがピットに入ればなんの心配もありません。ところが僕たちは、その代わりにレースでイエローが出ないことを前提にして走り続けた（したがってピットストップを1回減らせる）のですが、当然のことのようにタイヤのグリップは失われ、トラフィックのなかではタイムが落ち込みました。なぜなら、そのときの僕のペースは、周回遅れのマシーンによって決められることになるからです。これで大いに順位を落とし、非常に辛い立場に追い込まれました」
「その後は挽回を図ろうとしましたが、ピットストップを行なうたびに順位を落としたため、トップグループに追いつくことはついにありませんでした」

　300周のレースの196周目に琢磨は再び首位に浮上して4ラップを走行すると、結果的に最後から2番目となるピットストップを行なった。「リーダーがピットに入ったあと、僕は何周かピットストップを引き伸ばしました。最後のピットストップ・ウィンドウに手が届くようにするためです。したがって、最後のピットストップ以降は、もう給油を行なう必要がなくなります。けれども、そのためには燃料を大幅にセーブしなければいけません。長く走行する必要はありましたが、できない相談ではありませんでした。それはギリギリの戦略だったものの、計算上は可能で、うまくいけば優勝できるかもしれません。その時点では、自力で優勝する望みはほぼなかったので、戦略を見直さなければいけなかったのです。コルトン・ハータのペースが僕に近かったので、彼を利用して燃料をセーブしようとしました。彼に追走して燃費を改善することで、ようやく、この戦略に必要な燃費を達成できました」

　やがて、不幸にもニューガーデンが激しくクラッシュし、首位から脱落してしまう。「これは彼にとって不運だっただけでなく、僕たちの戦いが終わったことを意味していました。戦略を改めて見直すとともに、順位については諦めることになります。さらにバランスが乱れ始め、残り燃料が少なくなるにつれてフロントのグリップが不足するようになりました。もっといい成績が残せる展開だったので、これは残念でしたが、大金星を挙げようとして懸命に働くチームに異論を投げかけるわけにはいきませんでした。これもレースの一部というべきでしょう」

　最後のスティントで、琢磨はカラム・イロット、ロメイン・グロージャン、フェリックス・ローゼンクヴィスト、そしてチームメイトであるデイヴィド・マルケスらと激しい鍔争いを演じ、フィニッシュ前には8番手まで浮上することもあったが、結果的には10位でチェッカードフラッグを受けた。「レース終盤にはすべてのツールを使い果たしていましたが、フロントのグリップが十分とはいえませんでした。デイヴィドとは何度か接戦になったものの、いいレースだったと思います！ 彼のドライビングは巧みで、最終スティントではなかなかコンペティティブでした。これはチームにとっていいことといえます」
　続いてチームはインディアナポリスのロードコースへと直行。これが終わると、シーズンは短い休息に入ることになる。

written by Marcus Simmons

2022年7月23日、アイオワ州ニュートン発。
本日、インディカー・シリーズ第11戦アイオワ・レース1の予選と決勝が行なわれ、デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのNo.51 デロイト ホンダを駆る佐藤琢磨は、最終スティントで好走を見せたにもかかわらず、21位でフィニッシュしました。

予選を9位で終えた琢磨は、レース序盤から次第にポジションを落としていき、57周目に最初のピットストップを行なったときには21番手となっていました。117周目に2回目のピットストップを行なったときも琢磨のポジションは同じ21番手でしたが、その後、他のドライバーと接触したために予定外のピットストップを強いられ、トップの数周遅れとなります。それでも、フロントウィングを交換した琢磨は力強くレース終盤を走りきり、明日、行なわれる第12戦アイオワ・レース2に希望をつなぎました。

佐藤琢磨のコメント
「今朝の予選はうまくいき、決勝レースには9番グリッドから臨みました。ただし、オープニングラップから僕は順位を落とすこととなります。ハンドリングがひどいアンダーステアで、ポジションを守るのは不可能な状態でした。このとき『これは長い戦いになる』と覚悟したくらいです。ほどなく、僕のミスで小さなアクシデントが発生し、フロントウィングにダメージを負ってしまいます。このためピットに戻ってフロントウィングを交換しました。その後、マシーンの印象はまったく変わり、バランスは大きく改善されました。最後のスティントで、僕はおそらくもっとも速いドライバーのひとりだったと思います。おかげで明日のレースが本当に楽しみになりました。いずれにしても、アイオワでデロイトのマシーンを操ることができて、とてもハッピーです。それとともに、紫のNo.51 Nurtec ODT ホンダで明日のレースを戦うことも待ち遠しい思いです。しかも、レース2は5番グリッドからのスタートなので、とても楽しみにしています」

（デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのプレスリリースより）