インディアナポリスのロードコースで開催されたNTTインディカー・シリーズの第13戦を、佐藤琢磨は15位で終えた。けれども、5月に同じコースで開催されたレースで勇気づけられていた琢磨とデイル・コイン・レーシング・ウィズRWRにとって、これは失望すべき結果だった。

「本当にフラストレーションが募る週末でした」と琢磨。「5月のレースでは、100分の2秒差でQ2進出を逃しました。いっぽう、決勝はウェットレースとなり、先がまったく予想できない週末でした」

　2日間で開催されたイベントは1回限りのプラクティスで始まり、No.51のマシーンはトップから1.2秒遅れのタイムをマーク。しかし、競争の激しいインディカー・シリーズでは、これが25台中23番手という厳しい結果をもたらす。「プラクティスでは、ひたすら苦しんでいました。ペース的に、まったくコンペティティブではなかったのです。バランス自体は決して悪くありませんでしたが、とにかく遅く、スピードが伸びませんでした。しかも、プラクティスは1回だけで、すぐに予選を迎えるため、これはとても難しい幕開けといえます。僕たちの立場は非常に厳しいものでした」

　これらを踏まえれば、予選では大きく躍進したといえる。第2セグメントに進むのに、あと0.2秒だけ足りなかったのだ。これは予選グループの9番手に相当するタイムで、琢磨は18番グリッドからスタートすることが決まる。「現状、僕たちがトップ5に食い込めないことは理解できます。けれども、プラクティスの結果は、あまりにひどいものでした。そこで予選では、スピードを伸ばすために違ったことを試さなければならなくなりました。少なくとも、ここでは前進することができたと思います。僕たちはトップグループとの差を縮められたので、勇気づけられました。それでも、僕たちのスピードは十分ではありませんでしたが、予選で苦しむのはいつものこと。しかも、スコット・ディクソンとロメイン・グロージャンはなんと僕の後にいたのです！ 特にミスがあったわけではありません。ただ速さが不足していて、次のセグメントに進むにはコンマ1秒かコンマ2秒、不足していたのです。僕たちは差を詰めましたが、それでは不十分でした」

　土曜日のウォーミングアップでNo.51は最下位のタイムを記録するが、これだけではすべてを説明したことにならない。「僕たちはそれまでとは異なったことを試したほか、多くのドライバーはより新しいタイヤ、もしくは新品タイヤを履いていました。僕たちのタイムがあまりよくなかったのは事実ですが、ライバルたちのタイムもある意味で“作られたもの”で、全員がロングランをしているとき、僕のタイムは15番手でした。ペースが大幅に改善されたわけではありませんが、それでも僕たちは状況が改善されることを期待していました」

　インディGPコースで重要なのは、できるだけ早くブラック・タイヤを履き替えることにある。なぜなら、このコースではソフトなレッド・タイヤのほうが、ずっといい働きをするからだ。琢磨も、まずはブラック・タイヤでスタートしたが、その後は2セットの新しいレッド・タイヤを投入するなどして、3ストップでレースを走りきる戦略だった。レース序盤は、数多くのバトルが繰り広げられたドラマチックな展開となる。そのなかには、琢磨が素晴らしいサイド・バイ・サイドを演じてカラム・イロットを抑えきったシーンも含まれていた。さらにパト・オワードがスピンすると、No.51は17番手に浮上。続いてダルトン・ケレットのアクシデントによりイエローが提示される。ここで琢磨、それにウィル・パワーやオワードを含むドライバーたちが極めて早いタイミングでピットストップを行ない、日本人ドライバーはレッド・タイヤに履き替えてコースに復帰した。

「僕たちはブラック・タイヤで懸命に粘っていましたが、レース序盤にはレッド・タイヤを履いて激しくチャージしてくるドライバーもいました。ただし、ほとんどのドライバーは、最初のスティントでブラック・タイヤを履いていました。イエローが出たのはレースが始まったばかりのタイミングで、僕はこれをいいチャンスだと捉えました。ここでは3ストップでレースを戦いますが、ピット・ストップ・ウィンドウはとても広いものです。たとえ10ラップ目でピットに入ってもペースが犠牲になることはなく、ロードコースなのでアンダーカットはいつでも有効です。レース戦略はいいと思っていました。ウィルは僕と同じ戦略で表彰台を手に入れたほどです。ただし、パトはコンペティティブでも、僕はそれほどうまくいきませんでした。おそらく、僕たちのペースがよくなかったからでしょう」

　続いて琢磨は燃料のセーブに取りかかった。「僕たちは、次のイエローがもう少し長くかかることを期待しました。なぜなら、ペースをかなり犠牲にしなければいけなくなるからです。インディGPのコースは基本的にパワー・サーキットで、スロットル・ペダルを長い間、踏み込んで走ります。いっぽうで、僕たちはかなり燃料をセーブしなければいけませんでした。リスクとアドバンテージの戦いです」

　早いタイミングで出た最初のイエロー中にピットストップしたドライバーたちは、ここでピットに入らなかったドライバーたちがグリーン中に給油することになったため、集団の前方に進出。琢磨も、パワーとオワードに続く3番手につけていた。やがて、2回目のピットストップを行うまでに、琢磨は6番手まで後退。さらに2回目のイエローが出て少し経ったところで、燃料を使い果たしたサイモン・パジェノーがコースサイドにマシーンを停める。これで、琢磨は戦略的にさらに厳しい立場に追い込まれた。

「5番手ないし6番手を走っているときは、いい展開だと思っていました。ところが、サイモンはマシーンをある意味で安全な場所に停めたにもかかわらず、インディカーは全ドライバーに対し、イエロー前にピットサイクルを実施することを認めました。これは奇妙なことです。リスタートの際、僕はウィルとパトに続く3番手につけているはずでした。ところが、実際にはそうはなりません。とても不愉快な状況でした」

　結局、琢磨は9番手からリスタートし、スピードが不足していたために数周後には13番手まで後退する。やがて3回目で最後となるピットストップを実施したが、ピットサイクルが終わったときの順位は13番手のまま。最後のスティント中、琢磨はイロットとチームメイトのデイヴィド・マルカスにパスされ、15位でフィニッシュした。「最初のピットストップのタイミングが早く、しかもイエローが提示されている時間が短かったため、僕たちはとても多くの燃料をセーブしなければならず、おかげでペースを大幅に落とさなければいけませんでした。僕がポジションを落としたのは、ライバルたちが激しく追い上げてきたことも関係していました。いずれにせよ、いつかは抜かれていたでしょうから、強引に防衛する必要はまったくありません。速く走る以外に方法はなかったのです」
「ウィルは本当に速く、彼とペンスキーが僕たちと同じ戦略を選んでいたとは、とても信じられませんでした。僕にとっては、ひたすら長い午後でした。攻めることはできず、燃費だけに意識を集中させ、そして15位でフィニッシュしたのです。タフなレースでした」

　次週もまた、休むことなくレースは開催される。4週連続開催の最後を飾るのは、ナッシュヴィルのストリートサーキット。非常に特徴的なコースは、初開催となった2001年に波乱のレースを招き、混雑したトラフィックをきっかけとするアコーディオン現象に巻き込まれた琢磨は不運にもウォールの餌食となった。「ナッシュヴィルのレースを楽しみにしています！ ここでのリスタートは、フィニッシュラインの手前に90度コーナーがふたつ続いているため、とてもトリッキーで、昨年もここで多重事故が起きました。コースは本当にすさまじく、橋の上を190mph（約304km/h）で駆け抜けるうえ、驚くほどバンピーです。しかも、橋の上を走り抜けると、どちらのストレートでもヘビーブレーキをかけながら曲がり込むコーナーが待ち構えています。おまけに、あるところは5車線道路で、あるところはピットレーンよりも狭い！ 本当にユニークで、興味深く、楽しいコースで、とても人気のあるイベントです。できれば、ここではいいペースで力強いレースが戦えることを期待しています！」

written by Marcus Simmons

2022年7月30日、インディアナ州インディアナポリス発。

本日、インディアナポリス･モーター・スピードウェイで開催されたギャラガー・グランプリの決勝において、デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのNo.51 デロイト・ホンダを駆る佐藤琢磨は15位完走を果たしました。

琢磨はフルコーション中の4周目に最初のピットストップを実施。さらなるフルコーションによってアドバンテージを手に入れることを期待していました。やがて全車が最初のピットストップを終えたとき、琢磨は6番手まで浮上します。続く2回目のピットストップを31周目に行う直前には5番手まで駒を進めていました。ただし、琢磨が9番手を走行していた37周目にもう1度フルコーションが提示されたため、全ドライバーがあと1回のピットストップでレースを走りきれることになります。そして59周目に最後のピットストップを行うと、琢磨は13番手に後退。最終的に15位となってチェッカードフラッグを受けました。

次戦は8月7日にナッシュヴィルで開催されます。

佐藤琢磨のコメント
「今日の15位という成績は、僕たちに相応しい結果ではなかったかもしれませんが、チャレンジしないわけにはいきませんでした。最初のピットストップは早すぎるタイミングで、これがレースを通じて重荷になることは予想していました。僕たちは、さらにイエローが何度か出ることを期待していましたが、思いどおりにはなりませんでした。よりいい成績が得られなかったことは残念です。僕たちはチャレンジしました。いずれにせよ、プッシュし続けることが大切だと思います。来週のナッシュヴィルでいい結果を残すことを期待しています」

（デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのプレスリリースより）

2022年7月29日、インディアナ州インディアナポリス発。

本日、インディアナポリス･モーター・スピードウェイのロードコースで開催されたギャラガー・グランプリの予選において、デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのNo.51 デロイト・ホンダを駆る佐藤琢磨は18位となりました。

琢磨は予選の第1セグメントにグループ2から出走。そのアタック4周目に1分10秒8276のベストタイムをマークし、グループ内の9番手となりました。このため予選の第2セグメントには進出できず、18番グリッドからのスタートが確定しました。

明日は現地時間の午前中にウォームアップを行った後、午後に決勝レースが行われることになります。

佐藤琢磨のコメント
「今日は少し不満の残る1日でした。プラクティスではペースが上がらずに苦しみました。その後、予選に向けてマシーンを調整することで、半分くらいまで調子を取り戻したように思います。競争力の点でいえば、第2セグメントに進出するにはさらにコンマ2秒ほど必要でした。明日、ウォームアップがあるのは、いいことといえるでしょう。マシーンは徐々によくなっているから、力強くレースを戦えるはずです。レースに向けては新品タイアが2セット残っているので、これは僕たちのアドバンテージといえます」

（デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのプレスリリースより）