ナッシュヴィルの市街地コースでは、たとえどんなポジションで予選を通過しても何が起きるかわからない。2021年にテネシー州のコースでNTTインディカー・シリーズが初開催されたときに明らかになったのは、このことだった。そして2回目の開催となった2022年、改めて同様のことが確認された。ここでデイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのダラーラ・ホンダに乗る佐藤琢磨は、問題多きルーキーのデヴリン・デフランチェスコにターン10で接触され、不運にもこれでレースを終えることになる。デフランチェスコが原因で琢磨がリタイアしたのは、無論、これが初めてではない。

　ナッシュヴィルで2回目のイベントを開催するにあたり、インディカーとコース管理者がレイアウトの見直しを行なったのは、ある意味で当然のことだろう。そしてそうした作業は、コースが急激に狭くなるポイントで、2021年にアクシデントが多数発生した場所を中心に行われた。「今シーズンに向けて、いくつかのコーナーが改修されました。そのなかでもっとも重要なもののひとつは、橋を渡りきったストレートの先に控えたターン9に関するものです。このコーナーでは、すさまじいファンネル効果が起きていました。昨年、このコーナーの入り口では5車線か6車線分の利用が可能でしたが、出口はぎゅっと細くなっていました。そこで彼らは、今シーズンのレースに向けて出口の幅を少し広げるとともに、入口側を20〜25フィート（約6〜7.6m）ほど狭くしました。それでも、依然としてファンネル（じょうご）形状ですが、昨年よりはよくなっていて、それまでの2速ギアから1速を使うように変わりました。さらに、僕が犠牲者となったターン11の入り口も少し幅が広がりました。ただし、昨年はターン10でのアクシデントがなかったため、ターン10に関して見直しは行われませんでした」

　金曜日に行われた最初のプラクティスから、No.51のマシーンはまずまずのパフォーマンスを発揮し、多少の躓きを経験しながらも15番手につけた。「昨年のナッシュヴィルで、DCRはとてもコンペティティブでした。ただし、今年はタイヤの特性が見直されたこともあり、どのサーキットに行ってもセットアップを大幅に変更することが増えています。僕たちは、昨年のセットアップにいつもどおりの微調整を施すことで、ある程度、納得のできる走りができました」

「ナッシュヴィルでは、オプション・タイヤを初日に試すことが義務づけられました。これは今年2回目のことですが、いささかトリッキーな状況を生み出します。通常、1回目のプラクティスではレース向けのセットアップを煮詰め、2回目のプラクティスでオプション・タイヤを試して予選に備えます。僕は、バランスに関して最高に満足していたわけではなく、エンジニアは激しいボトミングを防ぐのに苦労していました。しかも、ギアボックスはオイル漏れを起こしていたのです」

　ギアボックスは、土曜日に行われた2回目のプラクティスまでに交換されたが、さらなるトラブルが起きて琢磨は21番手に沈み込む。「ダンパーが壊れてしまったのです。これは、いかにダンパーが酷使されているかを物語るもので、橋の終わりでは特にその傾向が明確でした。しかも、ペースは伸び悩み、正しいバランスに整えることができなかったのです。スナップ・オーバーステアがいたるところで顔を出し、中速コーナーではアンダーステアに見舞われていました」

　琢磨は予選で状況が改善されることを期待していたが、予選グループのなかで10番手となり、20番グリッドからスタートすることが決まる。「もうちょっといい結果になると思っていました。プラクティスはチャレンジングでしたが、オプション・タイヤを履けば状況は好転すると期待していたのです。今回のオプションはグリーン・タイヤでした。これはサステイナブル素材を用いたもので、環境に優しいタイヤを使うのは素晴らしいことだと思います。しかも、パフォーマンスも良好でした」

「予選直前に豪雨があり、グループ1はチョイ濡れのコンディションで予選を迎えたうえ、途中で赤旗中断もありました。僕はグループ2で出走し、コンディションは走るたびによくなっていきます。そしてプライマリー・タイヤで3ラップ、オプション・タイヤでも2ラップのタイム計測を行いました。バランスは改善され、スピードも上がっていきましたが、不運にも、スピードが速くなったのはどのドライバーも同じことでした！ これは残念なことです。とてもタフな状況で、このレースに優勝したスコット・ディクソンは、僕よりもたった100分の25秒速いだけでした。本当に、ちょっとしたことだったのです」

　たとえそうだとしても、予選から決勝当日のウォームアップに向けて、琢磨はさらなる改善を実感することになり、ポジションも14番手へと上昇した。「クルマの印象はさらによくなりました。しかもレースでは数多くのイエローが期待されるほか、予想できないファクターも数多く見込まれています。したがって大切なのは、まずは生き残ることです」

　ナッシュヴィルのレースはいつも未知のできごとの連続だ。No.51はプライマリー・タイヤを装着してスタート。これは最初のスティントを大事に走りきったうえで、できればオプションに履き替えたときにペースアップが図れることを期待しての判断だった。しかし、琢磨の後方からスタートしたドライバーのなかにレッド・タイヤを履くドライバーがいたことで、彼にとってはトリッキーな展開となる。オープニングラップを終えたとき、琢磨は22番手となっていた。続いて琢磨は、自分のペースが前を走る遅いドライバーによって規定されていることに気づく。ところが、8ラップ目にはアレクサンダー・ロッシがスピンしてイエローが提示。やがてグリーンに変わると、琢磨はダルトン・ケレットをパスし、中団グループを追いかけながら17番手を順調に走行するようになった。

「スタートは決して悪くありませんでした。ターン9の出口は比較的よかったのですが、ターン10とターン11ではサイド・バイ・サイドがたくさんあって、かなり難しい状況でした。僕の後方を走るドライバーの多くがオプション・タイヤを履いていました。しかも、レース前に雨が降ったため、プライマリー・タイヤで走行するには極めて難しいコンディションとなります。そこで、オープニングラップはひたすら安全に切り抜けることを心がけました。当初は、前方を走るドライバーに引き離されていましたが、やがてイエローが出ると、そのうちの何人かをパスするようになります。なにごとにもガマンは重要です。僕はコノー・ダリーの背後につけていましたが、オプション・タイヤでアグレッシブに走っていた彼は、スティント後半になると苦しみ始めました。この頃になると、彼よりも僕のほうが速いのは明らかで、イエローに助けられる格好で彼の前に出ることができました」

　そして他のドライバーがピットストップを行うと、琢磨はさらにポジションを上げていき、エリオ・カストロネヴェスのスピンでイエローが出たところで最初のピットストップを行なう。これで琢磨は15番手。その後、琢磨の後方を走るドライバーのほとんどが関係する多重アクシデントがターン7で起こり、長い間、イエローが提示された。レースが改めてグリーンになったのは、実に33ラップ目のことである。

「状況はどんどんよくなっていきます。そしてリスタートでは、ジョセフ・ニューガーデンを追走していきました。いっぽう、僕の後方にはコルトン・ハータ、インサイドにはデヴリン・デフランチェスコがいました。ターン9を通過する際には問題ありませんでしたが、コーナーの出口でデフランチェスコは僕を突くという不可解な行動をとり始めたのです。さらにターン10から11にかけてはサイド・バイ・サイドで進入していきます。ここは、なんとか2台が並んで入れるものの、コース幅は限られているので、誰もがライバルをリスペクトしながら通過していました。デフランチェスコは入り口でポジションを守ろうとしたので、僕はアウト側にマシーンを振り、自分がどこにいるかを確実に報せようとしました。僕はタイヤ1本分ほど彼の前に出ていて、このとき彼もそれを見ていました。さらに僕は、彼のために十分過ぎるスペースを残していましたが、それでも出口で僕に突進してきて、2台は絡み合い、ウォールに突っ込んでしまったのです」

「彼は、僕がドアを閉じたのが原因だといいましたが、そんなことはありません。続いて、自分は誰かに追突されたと言い張りました。そこで僕は『うーん、彼の後にいたのはチームメイトのコルトン・ハータだったから、これは信じられないぞ』と思いましたが、もしも本当に追突されていたとすれば、それは残念なことです。ところが、レースが終わってから、コルトン・ハータを追走していたジャック・ハーヴェイのオンボード映像を確認したところ、ふたりの間とイン側には少なくとも3フィート（約90cm）のスペースがありました。デフランチェスコは、アペックスを捉えられなかったのに、そのままのラインで走り抜けようとしたのです。もちろん、そんなことはできず、僕に突っ込んできました。さらにいえば、コルトンはデフランチェスコに近づいてもいませんでした！」
「これで僕のレースは台無しになりました。僕はいつもレースをハードに戦っていますが、誰に対してもフェアでいるつもりです。デフランチェスコがアグレッシブなドライバーあることを承知しているからこそ、彼には十分なスペースを与えました。いずれにせよ、その後のレースはイエローがたくさん出る実に興味深いもので、僕も彼らと一緒にレースを戦うことができたらと思いました。ただただ、残念な結末でした」

　次戦はセントルイスで開催されるゲートウェイ。2022年のインディカー・シリーズにとっては、これが最後のオーバルレースとなる。「チームメイトのデイヴィド・マルカスを含むすべてのルーキーは、ナッシュヴィルのあと、セントルイスでテストを行いました。僕たちはテスト後に打ち合わせができるので、これが役に立つことを期待しています。ゲートウェイにはいい思い出があります。ここで僕は、とてもコンペティティブだったことが何度もあったので、是非ともいい週末を迎えたいと願っています。このサーキットでは、DCRは歴史的に見てもマシーンがコンペティティブで、パズルのピースはすべて揃っているように思えます。力強くレースを戦えることを、大いに期待しています」

written by Marcus Simmons

2022年8月7日、テネシー州ナッシュヴィル発。

本日、ビッグ・マシーン・ミュージック・シティ・グランプリの決勝が行なわれ、デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのNo.51 Nurtec ODT ホンダを駆る佐藤琢磨は、アクシデントのためリタイアに追い込まれました。

20番グリッドからレースに挑んだ琢磨は、10周目までに18番手へと浮上。最初の給油を行なうため、22周目にピットレーンに向かったときには13番手となります。その後も琢磨のペースはよく、次第に順位を上げていきましたが、No.29 デヴリン・デフランチェスコをパスしようとした際にアクシデントは起きました。ターン10に進入するとき、ルーキー・ドライバーであるデフランチェスコに対して自分が明確に先行していることがわかるよう、琢磨は慎重にドライブしましたが、2台は絡み、ウォールに接触してレースを終えました。しかも、琢磨のマシーンは深刻なダメージを負っていたため、21位でレースを終えることとなりました。

次戦は8月19日にセントルイスで開催されます。

佐藤琢磨のコメント
「今日のレースはとても残念な形で終わりました。僕たちは15番手までポジションを上げ、さらにトップ10を目指していましたが、期待どおりにはなりませんでした。ターン10でデフランチェスコのラインがアウトに膨らんだため、いつもであれば2ワイドで通過できる場所で接触し、ウォールに衝突しました。彼は『僕が彼に向けてステアリングを切り込んだ』と説明していますが、そんなことはしていません。彼に対しては、確実に僕が見えるようにしていましたし、実際、彼は僕を見ていました。彼は『誰かに追突された』とも説明していますが、オンボード映像を見たところ、実際はそうではありませんでした。チームとしては、デイヴィド（マルクス）が素晴らしい走りを見せてくれましたが、彼も不運に見舞われました。思いどおりにならない1日でしたが、僕たちはこの勢いを保ち、数週間後に行なわれるセントルイスでは力強くレースを戦いたいと思っています」

（デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのプレスリリースより）

2022年8月6日、テネシー州ナッシュヴィル発。

本日、ビッグ・マシーン・ミュージック・シティ・グランプリの予選が行なわれ、デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのNo.51 Nurtec ODT ホンダを駆る佐藤琢磨は20番グリッドを獲得しました。

予選のセグメント1にグループ2から出走した琢磨は、当初1分15秒5935をマークして7番手につけていましたが、セッション終了時には10番手となり、明日の決勝レースに20番グリッドからスタートすることが決まりました。

明日はウォームアップののち、決勝レースが行なわれます。

佐藤琢磨のコメント
「今日のプラクティスは順調で、大きな進歩を果たしました。このため、予選には大きな期待を抱いていましたが、思いどおりにはいきませんでした。予選の走りも悪くはありませんでしたが、最終的にラップタイムは非常に接近したものになりました。残念ながら、グループ内で10番手となったため、第2セグメントに進むことはできませんでした。ただし、明日はウォームアップがあるので、ここでレースに向けた準備ができます。昨年の決勝もドラマティックな展開だったので、チャンスはあると思います。明日のレースでいい結果が残せることを期待しています」

（デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのプレスリリースより）