セントルイスのワールド・ワイド・テクノロジー・レースウェイ（一般的にはゲートウェイの名で知られる）での5位が、2022年NTTインディカー・シリーズでこれまでのところ佐藤琢磨が獲得した成績としてはベストなものである。しかし、勝てるレースを落としたことで、決勝後の琢磨はひどく打ちひしがれていた。デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのNo.51 ダラーラ・ホンダは週末を通じて速く、トップ3フィニッシュや優勝さえ期待できる展開だったが、チームとのミスコミュニケーションにより最終的にはトップ6を争うレースとなってしまったのだ。

「5位という結果に落胆するのは、ある意味でいいことかもしれません」と琢磨。「レース後の数日間、僕はひどくショックを受けていました。（勝てなかったのは）戦い方を誤ったのが最大の理由です。コミュニケーションの問題により、自分たちの手で優勝のチャンスを葬ってしまったのです」

　金曜日のプラクティスで琢磨は9番手とまずまずの結果を残したが、実際にはその結果以上の手応えを掴んでいた。「（チームメイトのデイヴィド・マルカスを含む）すべてのルーキードライバーは、ゲートウェイで事前にテストを行なっていました。ここでチームはいいテストを行なったうえ、プラクティスでもさらに改善を図りました。僕はセッティング作業の効率を高めたいと思っていたので、2台でセットアップの方向性を少しだけ変えてもらうことにしました。それは、考え方のちょっとした違いでしたが、このサーキットではいつも日中の気温が高くなるのを考慮に入れても、夜間の走行で大きな前進を図ることができました。路面温度が高くなると、グリップレベルはかなり低下しますが、それでもこのセッティングが自分にはうまく機能するように思えたのです」

　予選の出走順は、ポイントスタンディングの反対とされた。今季、これまで苦戦続きの琢磨は、したがって早いタイミングで出走することになったものの、この時点でのトップタイムをマークする。しかも、そのポジションをかなり長い間、守り続けたのだ。「プラクティス中に予選シミュレーションを行なったものの、それだけでは不十分でした。予選用にセッティングを微調整しましたが、これによってバランスがわずかに崩れてしまい、僕のアタックは完璧とはいいがたいものになりました。何度かグリップを失いかけるシーンがあって、アタックした2ラップともにコンマ1秒ずつロスしたと思います。これはちょっと残念でした。僕たちは完全に満足していたわけではなく、あの時点でできることすべてに取り組み、アタック中は可能な限り多くスロットルペダルを踏んでいました。ダウンフォースはギリギリまで削られ、ターン1ではブレーキングを、ターン3とターン4ではスロットルオフをしなければならず、とてもチャレンジングでした。ここで僕はタイムチャートのトップに躍り出ましたが、後で抜かされるであろうことはわかっていました」

　さらに、琢磨にとっては最悪のタイミングでフェリックス・ローゼンクヴィストがスピンして赤旗が提示なったため、後から出走したドライバーたちにとってはさらに有利な展開となる。「赤旗となっていた時間は長くありません。でも、その20分間ほどの間に気温が下がり、最後に6人のドライバーがアタックしたとき、それまでより7℉（約4℃）涼しい状況でした。これだけ気温が変わると、別世界といっても過言ではありません。その後も、僕はちょっとの間だけトップの座を守っていましたが、最終的には8位となりました。ウィル・パワーには、心からおめでとうと申し上げます。彼のアタックは目を見張るべきもので、たとえ僕が同じ低い気温で走っていたとしても、彼のタイムには届かなかったと思います。ウィルとは数年前に、ここでポールポジションを争ったことがあります。僕には、彼がどれだけ真剣にアタックしたかがわかりました。しかも、これでウィルはインディカーで67回のポールポジションを獲得し、史上最多記録を持つマリオ・アンドレッティに並んだのですから、本当に素晴らしかったと思います」

　夜間に行なわれた予選後のプラクティスで琢磨は前進し、7番手となった。「セッションの開始直後は2番手で、半ばにはトップに立っていました。とてもいい走りができました。辺りが少し暗くなり始めた頃、数台のマシーンがニュータイヤを装着して僕のタイムを上回りましたが、ほとんどの時間、僕はトップ3に入っていました。したがって、決勝レースでもいい仕事ができると自信を深めていました」

　レース序盤、琢磨はアレックス・パロウに先行して7番手を走行。さらにスコット・ディクソンを追走しながら、最初のスティントを走り続けた。最初のピットストップ・サイクルが終わっても琢磨は7番手をキープし、ディクソンを追っていたが、やがてタイトルを6回獲得したドライバーから6番手のポジションを奪い取ることに成功する。その10周後、琢磨は2回目のピットストップをやや早めのタイミングで行なったが、この判断が彼のレースを左右することになる。

「最初のふたつのスティントで、僕は順調に走行していました。すべて問題がないように思えたのです。前方を走るドライバーたちにも接近できましたが、オーバーテイクはとても難しい状況でした。ただし、パト・オワードだけは手のつけようがなく、ひとりで先行していきました。過去の経験からいえば、アイオワ・スピードウェイほどではないものの、このサーキットではアンダーカットが極めて有効です。ショートオーバルでアンダーカットをすると、一旦はラップ遅れになるので、他のドライバーがピットストップする前にここでイエローが出ると、とても厳しい状況に追い込まれます。ただし、もしもイエローが出なければ優勝のチャンスが転がり込みます。この日のレースはとても落ち着いた展開で、あまりイエローが出るようには思えなかったので、僕たちはアンダーカットに挑戦しました。もうひとつ、もしもひどく混雑した場所でレースに復帰すると、アンダーカットがうまく機能しなくなりますが、僕がコースに戻ったところは、5秒間の幅で誰も走っていないところでした。ここで僕はファステストラップを連発。他のドライバーがピットストップを行なうと、僕はトップに浮上していました。アンダーカットが大成功を収めたのです。結果的に、僕のタイヤはすでに長い距離を走行した状態となっていましたが、それでも僕は2番手との差を4秒まで広げたり、ときには6秒近くまで引き離すことができました。僕はレースを完全に支配下に収めていて、タイヤと燃料を少しセーブしていました。この時点で、僕はとても満足していたのです」

　琢磨はこのとき18周にわたってレースをリード。続いてジャック・ハーヴェイがウォールと接触して、このレース最初のイエローが提示される。これが、勝負を分ける重大な局面となる。「これは決定的な場面でした。僕は無線を通じて、ピットインしてタイヤを交換すべきだと伝えました。このときは、ある意味でみんながピリピリしていました。なぜなら、このときピットストップを行なったら、レースが終わるまでにおそらくもう1度、ピットに入る必要が出てくる可能性があったからです。けれども、僕自身はフィニッシュまでにまたイエローが出て、燃料をセーブできるだろうと踏んでいました。僕たちには、まだフレッシュなタイヤがあって、タイミングをはかっていましたが、ハーヴェイのアクシデントが起きると、すぐにピットがオープンになったことで、状況ががらりと変化します。僕はバックストレートにアプローチしていましたが、ピットからはまだ明確な答えが返ってきていません。僕は改めてチームに訊ねましたが、どうやら、僕たちは相手に対して同時に話しかけていたようなのです」

　結局、琢磨はピットを通過したが、他のドライバーはここで3回目のピットストップを行なった。「気にすることなくピットに飛び込むべきでした。けれども、僕は少し迷ったすえに、コース上に留まることを選びました。この直前、僕は（このレースに勝つことになる）ジョセフ・ニューガーデンの数秒前を走っていました。彼との間に、数台の周回遅れがいたからです。それから1周走ったところで、チームはピットストップする判断を下し、僕に指示しましたが、もしもすぐにピットストップしないのであれば、そのままステイアウトすべきでした。僕は列の最後尾（そのうちの多くをラップしていたので、琢磨は8番手となった）に並びましたが、つまりは二重のペナルティを受けたのと同じことでした。僕たちはミスを犯し、チャンスを棒に振ったのです」

　レースがグリーンになると、琢磨にとって状況はさらに悪化する。「タイヤで苦しむようになっていて、とてもフラストレーションに感じていました」 そしてマルクスの後方にあたる9番手まで順位を落とす。DCRのマシーンは、最後のピットストップに向けてライバルより長くコース上に留まった結果、マルクスと琢磨はピットストップまで1-2体制で周回を重ねた。さらにコース上に復帰すると、琢磨はマーカス・エリクソンをパスして6番手に浮上。間もなく雨が降り始めた。

　これでレースは赤旗中断となり、嵐が過ぎ去ってコースがドライに転じたところで、残り36周のスプリントレースが幕を開けたのだが、このとき、周囲は暗くなり始めていた。「1−2のままリスタートできるので、最後のピットストップをできるだけ引き延ばしたいと思っていました。いっぽうで、僕のマシーンはフューエル・リグの問題を抱えていたほか、右リアホイールにダメージを負っていました。チームメイトに先行することもできましたが、すでに大いに順位を落としていたところ、レッドフラッグとなりました」

　夜を迎えると、セッティング面で一部ライバルには有利に働くが、No.51にとっては不利に作用する。「僕たちにできることはなにもありませんでした。フロントウィングの角度も、車高も、タイヤ空気圧も、なにも手を付けられないまま、完全なナイトレースを迎えようとしていたのです。僕も引き続きコンペティティブでしたが、チームメイトであるデイヴィドはまるで空を飛んでいるかのようなペースでした。僕は、コクピット内で調整できるツールを使い果たしており、これはとても残念なことでしたが、最終的に2位でフィニッシュしたデイヴィドにとっては素晴らしいレースとなりました」

　残り29周となったところで、琢磨はパワーをパス。続いてオワードに迫ったが、周回遅れにもかかわらず、無用に邪魔をするサイモン・パジェノーに行く手を阻まれる格好になってしまう。「ウィルと軽く接触したせいで、右リアのホイールから白い煙がかすかに立ち上りました。ただし、ドライブにはまったく影響がありません。お互い、相手の走りには納得していて、問題はありませんでした。ところが、周回遅れが……。サイモンは3周遅れだったので、なぜ彼がそんなに懸命になるのか、僕には理解できませんでした。ウィルも、サイモンについて似たような経験をしたそうです。サイモンは、僕の前を横切り、再び追い上げましたが、おかげでパトに迫ることはできませんでした」

「もしも僕たちに、レース半ばで起きたコミュニケーションの問題がなければ、少なくとも、優勝したジョセフの前には立っていたでしょう。最後のスティントでは、彼のほうがペースは速かったものの、僕たちはジョセフよりも新しいタイヤを履いていました。おそらく、彼は僕をオーバーテイクできなかったでしょう。つまり、僕たちはただただチャンスを棒に振ったのです」

　今後は、西海岸で繰り広げられるシーズン終盤の戦いに臨むことになる。まずはラグナセカでのテスト、続いてポートランドのレースに挑み、ラグナセカでの最終戦を迎えるというスケジュールだ。「ポートランドでは以前に優勝したことがありますし、昨年はラグナセカのレースで力強い走りができました。この2連戦で、必ずしもゲートウェイのときと同じようなチャンスが巡ってくるとは思いませんが、全力を尽くすつもりです。まずは、ポートランドでのいいレースを期待しています」

written by Marcus Simmons

2022年8月20日、イリノイ州マディソン発。

本日、ワールド・ワイド・テクノロジー・レースウェイ・アット・ゲートウェイで開催されたNTTインディカー・シリーズ第15戦の決勝レースにおいて、デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのNo.51 Nurtec ODT ホンダを駆る佐藤琢磨は今季最高となる5位フィニッシュを果たしました。

8番グリッドからスタートした琢磨は、スタートでひとつ順位を上げると、第1スティントのほとんどを7番手で走り続けました。続いて103周目に2回目のピットストップを行なうまでには6番手へと浮上。そして他のドライバーよりも早めにピットインすることにより、前方が開けた状態で走行を続けた結果、127周目にはトップに立ちました。その後、144周目にフルコーションが出るまで琢磨はアドバンテージを築き続けます。158周目にレースがグリーンとなったとき、8番手を走行していた琢磨は、雨のため217周目に赤旗が提示された段階では6番手につけていました。そしてレースの最終スティントでもうひとつ順位を上げると、5位で231周のレースをフィニッシュ。このレースで、琢磨は結果的に22周をトップで走行しました。

次戦ポートランドは9月4日に開催されます。


佐藤琢磨のコメント
「このコースではいつもエキサイティングなレースが繰り広げられてきましたが、今回もそうなりました。観客の皆さんにとっては、ファンタスティックなレースになったと思います。今回、トップ5でフィニッシュできたことが、ホンダへの貢献に結びついたとすればとても嬉しいです。ただし、私たちにはもう少しの幸運が必要でした。数ラップ遅れなのに僕に進路を譲ってくれないドライバーがいたおかげで、おそらくポジションをひとつかふたつ失ったと思います。いずれにせよ、デイル・コイン・レーシング・ウィズRWR、それにホンダには心から感謝しています。本当に素晴らしい結果でした。また、初めて表彰台に上ったデイヴィド（マルクス）には心からおめでとうと申し上げます」

（デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのプレスリリースより）