2022年NTTインディカー・シリーズの第16戦が開催されたポートランドにおいて、佐藤琢磨は最初のプラクティスから決勝レースに至るまで苦しい戦いを強いられた。デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのNo.51 ダラーラ・ホンダに乗る琢磨は18位でフィニッシュしたものの、もしも不可解なペナルティさえなければ、もっといい成績を挙げていただろう。

　オレゴンのロードコースへと向かう前に、DCRは他の多くのチームとともに西海岸のカリフォルニアへと移動。最終戦が開始されるラグナセカでのテストに臨んだ。もっとも、このテストも順調とは言いがたい内容となる。「ラグナセカでのテストは、いつもトリッキーなものになることを経験してきました」と琢磨。「路面はとても滑りやすく、おまけにとても古い舗装です。しかも砂が本当に多く、おかげでタイヤ・デグラデーションが激しく、しかも路面コンディションは急激に改善されていきます。とにかく安定した走行が難しく、走り始めのタイヤは通常よりもラップタイムが1秒遅いほどです」

「ポートランドのテストには、ペンスキー、アンドレッティ、フォイトの3チームが参加しました。ここはコンディションが安定しているうえ、路面のグリップはとても良好です。いっぽうのラグナセカでは、ファイアストンのタイヤサービスが到着しなかったので、午前中にテストを始めることができませんでした！ そしてテストの開始が昼過ぎまでずれ込んだため、終了時間は通常の午後5時ではなく、午後7時まで延長されました。ここで僕たちは自分たちのプログラムに取りかかり、様々なものを試しました。ロードコースのテストはしばらく行なっていなかったので、とてもためになりました。僕たちの走行時間が後にずれたため、海から冷たい風が吹き込んできたうえ、気温が急激に下がり、最後の2時間は走行するのがとても難しい状況でした。それでも、学ぶべきことは必ずあるので、レースで戻ってくるときのための準備を整えました」

　金曜日に行われたポートランドでの最初のプラクティスで、信じられないアクシデントにより13周しか走行できなかった琢磨は、最下位の25番手に終わる。「インスタレーションラップは通常どおり行ないました。そして最初の走行と2回目の走行も問題ありません。ところが3回目の走行で、これまでの人生で体験したこととのない事件が起きたのです」
「ヘッド・プロテクションを固定するレバーはステアリング・ホイールの横に固定されていて、僕はターン10とターン11に185mph（約296km/h）で進入していきました。左コーナーでは3.5Gから4.0Gが身体にのしかかり、続く右コーナーでは、これが反対向きに変わります。もちろん、両手やグローブも同様です。そして左にステアリグを切ったとき、このレバーがグローブのなかに入り込んでしまったうえ、右コーナーに進入する際にこれが引っかかり、ステアリングが切れなくなったのです。わずかな時間だけブレーキをかけることができましたが、レバーが引っかかったままだったので、そのままバリアに直行してしまいました。グラベルでクルマは何度も跳ね上がり、そこで引っかかっていたレバーが外れたためステアリングを切りましたが、グリップはまったくありません。本当に恐ろしい体験でした。いったい、どうしてこんなことが起きるのでしょうか？　おそらく、100万回に1回の偶然でもなければ起きないはずです。ここで僕は貴重な走行時間を失っただけでなく、ソフトなレッド・タイヤを試すチャンスも失いました。今シーズン、インディカーはソフト・コンパウンドをレースウィークの初日に使うことを義務づけていますが、結果的にここでは使えませんでした。本当に残念なことです」

　土曜日の午前中に行われた第2プラクティスでは、状況は多少改善され、琢磨は23番手となる。「大急ぎで追い付かなければいけませんでした。これは、とても困難な展開でした。なにしろ、昼間は気温がかなり上がるのに、プラクティスが始まったのは午前9時なのです。この段階では、まだとても寒く、気温は25℉（約14℃）も下がっています。クルマの印象もまったく違っていました。マシーンを速くする作業は、結局のところコンディションにあわせるだけになっていたのです」

　琢磨は予選グループで11番手となり、日曜日の決勝には22番グリッドから挑むことが決まる。「予選も困難な戦いとなりました。バランスがよくないうえ、ポートランドはとても短いサーキットなので、0.1秒に10台が並ぶこともあります。つまり、コンマ何秒か遅れたら、それですべてが終わったも同然。予選グループで11番手となったことに、僕はひどく落胆していました」

　ウォームアップでは大幅に改善され、No.51は13番手となる。「僕たちのレースカーは全般的によくなっていて、これには少し勇気づけられました」

　レース戦略は、一般的な3ストップではなく、敢えて2ストップを選択した。2018年のポートランドで、この戦略は琢磨に完璧なレース展開をもたらし、20番グリッドからスタートして優勝を果たしている。このコースはオーバーテイクが難しいので、後方グリッドから好成績を収めようとするなら、人と異なるアプローチでレースに臨んだうえで、自分たちにとって都合のいいタイミングでイエローが提示される必要がある。2018年のレースが、まさにそれだったのだ。

「この戦略で戦うには、ピットストップ・ウィンドウが極めて狭いので、イエローが出なければ不可能も同然となります。そのためにはラップ1から懸命に走る必要がありますが、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングとともに2018年に勝利を収めたときは、まさにそのように戦いました。当時から、ダウンフォースを減らせば2ストップが可能だと思っていました。それは、オーバーテイクしたりポジションを守ったりするのに必要なわけではなく、燃費を稼ぐために欠かせなかったのです。今回は当時よりレース周回数が5ラップ多いので、僕たちはダウンフォースをあまり削りませんでした。ポートランドでは何回もイエローが出るのが一般的です。しかも、ターン1ではトンネル効果のため7ワイドになることもあり、アクシデントが絶えません。したがって、早ければオープニングラップにもイエローが出ることを想定する必要があります。けれども、驚くべきことに今回は誰もが礼儀正しく、何のアクシデントもなく全ドライバーが1コーナーを通過していきました。2ストップ作戦で走る僕たちのペースは速くありませんでしたが、僕たちはイエローを待って、待って、待ち続けました。けれども、15周目が近づいてきたところで、チームのチーフストラティジストはイエローが出ないと判断います。そこで僕たちは3ストップに戦略を変更。結果的にペースを上げ、この間の失地を挽回する必要に迫られましたが、最初から3ストップ作戦で戦っていたドライバーたちは、すでにはるか彼方を走行していました。したがって、とても苦しい状況だったといえます」

　琢磨はオープニングラップにロメイン・グロージャンを攻略。しかし、デヴリン・デフランチェスコにパスされたため、引き続き22番手を走行していた。やがて、スティントの後半でグロージャンに先行されて23番手に後退。最初のスティントをもっとも長く引き延ばしたドライバーのひとりとなった琢磨は、7番手まで浮上してからピットストップし、23番手でコースに復帰した。第2スティントも比較的、長く走り続けると、今度は21番手でレースを再開。しかし、コノー・ダリーのリタイアで20番手となる。やや短めの第3スティントに続いて最後のピットストップを終えたとき、琢磨は前を走る多くのライバルたちを蹴落として18番手に浮上。ここでジミー・ジョンソンがターン1のアプローチ側でウォールと接触し、この日、初のイエローが提示された。「イエロー中に間隔を狭めなかった（前方のマシーンに接近しなかった）」という奇妙なペナルティが琢磨に科せられたのはこのときで、これにより彼は21番手に後退する……。

「最初のスティントを終えると、僕は多くのマシーンに追い付いたり追い越したりしました。これが後に大きく役立つことになります。僕に科せられたペナルティに関しては、いささか戸惑っています。僕たちはピットでオーバーカットを成功させ、メカニックたちのピット作業も素晴らしいものでした。ピットの出口ではグロージャンとサイド・バイ・サイドになります。今年、彼と何度サイド・バイ・サイドになったか思えていませんが、今回は接触せずに済みました。イエローが出ている間、JJがウォールに突っ込んでいるところが見えましたが、救出は難しいように感じられました。そのとき、僕はもちろん必死にプッシュしていたわけではありませんが、かといってゆっくり走っていたわけでもありません。前を走っていたジャック・ハーヴェイより速いペースで、おそらくトップに比べて10秒くらい速かったと思います。このときには、JJのマシーンもすでに引き出されていて、前方に集団の姿も見えましたが、突如として僕にペナルティが科せられ、3ポイントを失いました。これは本当に不思議です。これにはチームも怒り狂っていましたが、できることはなにもありません。ただし、これさえなければ、おそらく16位か15位になっていたでしょう」

　残り23ラップでグリーンフラッグが振り下ろされると、琢磨はフィニッシュまで全速力で走り抜け、まずはエリオ・カストロネヴェスをパス。ピットに入ったライナス・ヴィーケイを攻略すると、今度はグロージャンに抜き返された。これで18番手となった琢磨は、ターン1で起きた思いがけない出来事により20番手に後退。クリスチャン・ラングーのトラブルで19番手に駒を進めると、最後はグロージャンとバトルした末にポジションを挽回し、18位でチェッカードフラッグを受けた。

「メカニックたちの素晴らしい働きで何台かをオーバーテイクできましたが、とても難しいレースでした。今日は、僕たちが心から楽しめる1日ではなかったようです。それとは対照的に、ただひたすら長い1日でした。細々としたことがあり、ペナルティを受けたのは余計でしたが、そんな様々なことがありました。とにかく困難な週末でした。最終戦のラグナセカには、大きな期待を抱いて臨まなければいけません。これ以上、不幸を呼び込まないように気をつけるとともに、シーズン最終戦を最高の形で締め括りたいと思っています」

written by Marcus Simmons

2022年9月4日、オレゴン州ポートランド発。
本日行われたNTTインディカー・シリーズ第16戦ポートランドの決勝レースにおいて、デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのNo.51 Nurtec ODT ホンダを駆る佐藤琢磨は18位でフィニッシュしました。

22番グリッドからスタートした琢磨は、第1スティントと第2スティントの大半を22番手もしくは23番手として走行。そして54周目に2回目のピットストップを終えると21番手に、さらに78周目に最後のピットストップを行なうと18番手へと浮上しました。ところが、84周目にフルコーションとなったとき、琢磨は素早く集団に追いつかなかったという理由でペナルティを科せられ、3つポジションを落とします。しかし、琢磨はその後も諦めることなく追い上げ、最終的に18位でフィニッシュしました。

最終戦となる次戦は9月11日にラグナセカで開催されます。

佐藤琢磨のコメント
「ポートランドのレースには、いい面と、あまりよくなかった面の両方がありました。レースが始まった直後は多くのイエローが出ることを期待して2ストップ作戦を想定していました。ところが10周か15周を走ったところで、この戦略がうまく機能しないことに気づき、フルパワーで追い上げを図りました。その時点でマシーンの調子はよく、数台をパスしました。No.51のメカニックたちはピットストップを素早く終えて、僕が順位を取り戻すのをサポートしてくれました。ところが、最後のフルコーションで、僕は『素早く集団に追いつかなかった』と指摘されてしまいます。そんな意図はありませんでしたが、僕はペナルティを受け、3つポジションを譲りました。18位という成績は理想的なものではありませんが、僕たちは懸命に戦いました。ラグナセカでの週末は、できればストレスフリー、ペナルティフリーで過ごしたいと思っています」
（デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのプレスリリースより）

2022年9月3日、オレゴン州ポートランド発。
本日行われたNTTインディカー・シリーズ第15戦ポートランドの予選において、デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのNo.51 Nurtec ODT ホンダを駆る佐藤琢磨は22番グリッドを獲得しました。

グループ2から予選の第1セグメントに挑んだ琢磨は、58秒6058のベストタイムを記録して当初は8番手につけていましたが、セッション終了時点では11番手となり、およそ0.5秒差で第2セグメント進出のチャンスを逃しました。

琢磨は2018年のポートランドで22番グリッドからスタートして優勝を遂げているので、明日の決勝レースではそのときの再現が期待されています。

今後は、土曜日の夜に最終プラクティスを行った後、決勝レースは現地時間の午後3時30分にスタートする予定です。

佐藤琢磨のコメント
「昨日のプラクティスでは恐怖を覚えるできごとがあり、このため多くの走行時間とファイアストンのレッドタイヤを試す機会を失いました。唯一のチャンスは今朝のプラクティスだったので、したがって予選は少しチャレンジングな状況となりました。それでも、僕たちは全力を投じました。残念ながら、僕たちが期待したような成績は収められませんでしたが、最終プラクティスではNo.51 Nurtec ODT ホンダが好調なことが確認でき、このセッションでは13番手となってポジティブなフィーリングを掴みました。戦略的には多くの選択肢があります。僕たちは、たくさんのことを試せるでしょうし、オーバーテイクもできると思うので、明日のレースを楽しみにしています」
（デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのプレスリリースより）