23位完走という成績をひと目見ただけでは、ラグナセカで幕を閉じた佐藤琢磨の2022年NTTインディカー・シリーズは低調のまま終わったと思えることだろう。けれども、実は琢磨にとってもデイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのNo.51 ダラーラ・ホンダにとっても、この不本意な成績を説明できる十分な理由があった。まず、マシーンには深刻なトラブルが発生していて、琢磨のほうは、レース中に1回だけあったイエロー後のリスタートでライバルと軽く接触し、このときの衝撃で親指を骨折していたのである。

　ここ数戦、苦しい戦いを強いられてきた琢磨とDCRにとっては、実に受け入れがたい結末だったといえる。人々を魅了して止まないカリフォルニアのロードコースでは金曜日にプログラムが始まり、No.51は18番手のタイムを記録した。「決して悪い滑り出しではなく、僕たちは戦略面の作業をこなしていました」と琢磨。「やや苦しんでいた部分があったので、セットアップは少し違った方向に改めることにしました。グリップを確保するのが難しいうえに、マシーンはそこら中でピクピクと動いて落ち着きがなかったので、いくつかの比較テストを行う必要が出てきました。多くのドライバーが路面に砂を巻き上げるので、トラフィックを避けるためにラインを外すと大量のほこりが待ち受けていて、これがタイヤに付着するとタイムアタックを諦めなければならなくなりました」

　土曜日に行われた2回目のプラクティスを、琢磨は21番手で終えた。「ポジティブなことも見えてきました。けれども、西海岸の朝9時は相変わらず涼しく、日中とは気温がまるで異なります。したがって、予選はまったく別の展開になることが予想されました」

　結局、琢磨は予選でも苦戦を強いられ、予選グループの11番手となり、決勝には22番グリッドから臨むことが決まった。「タイヤの空気圧で手こずっていましたが、これはあまり嬉しくない状況です。僕たちは、頭をポリポリと掻くしかありませんでした。タイヤ空気圧のズレは、僕たちが考えていたより大きいものでした。レッド・タイヤでの走行用にタイヤ空気圧を設定する時間がなく、このため本当に1ラップしかアタックできないことになりました。しかも、スナップオーバーステアが激しく、本当に不安定な状態でした」

　No.51は決勝前のウォームアップで順位を上げることが多いが、今回は例外で、21番手に終わった。ただし、これには理由があったようだ。「まずはトラフィックにつかまって、コークスクリューに続く坂を上っていく途中ではイエロー・フラッグが出ていました。つまり、またもチャンスを失ったわけですが、タイムチャートで見るよりは、マシーンのパフォーマンスは良好でした」

　この言葉にウソはなかった。というのも、決勝のオープニングラップで琢磨は5台を仕留め、17番手に浮上したのである。その後も力強い走りを示し、第1スティント中に抜かれたのは、グリッド後方からスタートしたタイトルコンテンダーのジョセフ・ニューガーデンただひとりだった。さらにライバルたちがピットストップを行うと、琢磨は一時8番手まで順位を上げたのである。「1ラップ目の走りは本当に力強かったと思います。僕は何台かを抜いて、さらに何台かが後退したので、差し引き5つも順位を上げました。このサーキットでは、燃費面でいえばピットストップは2回で済みますが、タイヤ交換は2回では済みません。昨年はレッド・タイヤでスタートし、ペースを落として3ストップにしましたが、それでも僕は非常に強力でした」

「今回のペースも悪くはありません。レッド・タイヤのデグラデーションはかなり大きいものでしたが、できるだけ長く、そのまま走り続けることができました。僕はグレアム・レイホールに先行していたものの、安定した性能のプライマリー・タイヤで走るグレアムと比べても、レッド・タイヤを履く僕のペースはほとんど低下しませんでした。僕たちは、ようやくマシーンを手懐けることに成功し、前のクルマと比べても力強いペースで、快適に周回を重ねていきました。ところが、7周目を過ぎたところで、リアグリップが急に失われたため、ついにレッド・タイヤのデグラデーションが始まったものと思いました。そのことをチームに伝えたところ、ピットストップを行ってタイヤを交換することになりましたが、それまでのパフォーマンスはとうとう戻ってきませんでした。マシーンは極めて不安定な状態だったので、僕たちはフロントウィングを少し寝かすことにしましたが、今度は中高速コーナーでひどいアンダーステアに見舞われることになります。結局、僕たちのペースはかなり落ち込みました」

　続いて別の問題も浮上し始める。メカニカル・トラブルに見舞われたカラム・イロットがピットレーン出口にマシーンを止めたとき、琢磨とほかのドライバーたちはイエローが振り下ろされる前にピットへと向かった。その後のリスタートで、No.51はダルトン・ケレットのマシーンと軽く接触する。決して目立ったアクシデントではなかったが、このときのキックバックにより、琢磨は親指を骨折してしまったのだ。

「最初にケガをしたのは、（数週間前の）ナッシュヴィルでデヴリン・デフランチェスコにあてられ、ウォールに突っ込んだときのことでした。このとき、おそらく骨にほんのわずかな亀裂が入ったものと思われます。そして今回のレースでは、リスタートの際にダルトン・ケレットとサイド・バイ・サイドを演じ、タイヤとタイヤが接触する事態となって、その衝撃が僕の手に伝わったのです。このとき、僕の指は完全に反対向きにひねられてしまいます。当初は痛みがあまりに激しく、リタイアを考えたほどでした。その後の数周は左手だけで操舵し、右手は軽く添えてドライブしました。やがてアドリナリンが出てきたせいか、痛みは次第に治まり、再び右手でステアリングを握れるようになりました。それでも、残りレースは本当に長く感じられました」

　ただし、琢磨のペースが伸び悩んだのは、親指のケガが原因というよりも、マシーンのパフォーマンス不足にあったようだ。結局、琢磨は後方から追い上げてくるドライバーに応戦することもできず、周回遅れの23位でレースを終えたのである。「難しいレースでしたが、とにかく完走だけはしたいと思っていました。1年を通じ、No.51のメカニックたちは素晴らしい仕事をしてくれました。だから、完走することがとにかく大切だったのです。ただし、成績に関しては思うようにいきませんでした」

　ところで、7周目からマシーンのパフォーマンスが急激に低下したと琢磨が証言したことをご記憶だろうか？ 「レースが終わるとすぐにマシーンをガレージに運び込み、エンジンカバーを開けてみると、その原因がわかりました。リアダンパーが壊れていたのですが、ロガーのデータを見たところ、それが7周目だったことが明らかになりました。つまり、残りのレースはスプリングだけで走っていたことになります。レースをやり直すことはもちろんできませんが、ここで起きたことは本当に残念です。このような技術的問題が起きることは、滅多にありません。いいスタートを切った今日に限って、こんなことが起きるなんて、本当に不運としかいいようがありません」

　困難に満ちたシーズンはこれで終わり、2023年について考えるべきときがやってきた。少し休息を取れば親指の問題は解消されるだろう。ただし、今後のインディカーをどう戦うかについては、まだ検討が始まったばかり。いずれにせよ、現時点では琢磨もデイル・コイン・レーシングも、来季もこの体制を継続したいと期待している。「彼らも僕に続投して欲しいと望んでいますが、モータースポーツを戦うには巨額の予算が必要となるので、僕たちはスポンサーを探さなければなりません。いずれにしても、まだやり残したことがたくさんあります。僕にとっては新しいチームで、新しいメンバーがたくさんいて、たくさんのことを学ばなければなりません。いいレースもいくつかありましたが、残念ながら僕たちのベストリザルトは5位でした。これは期待を下回るものなので、来季も一緒に戦えることを期待しています」

written by Marcus Simmons

2022年9月11日、カリフォルニア州サリナス発。
本日行われたNTTインディカー・シリーズ第17戦ラグナセカの決勝において、デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのNo.51 Nurtec ODT ホンダを駆る佐藤琢磨は23位でフィニッシュしました。

琢磨は素晴らしいスタートを見せると、オープニングラップが終わるまでに22番グリッドから17番手までジャンプアップ。3ストップ作戦を選んだ琢磨は、16周目に最初のピットストップを行うまでに8番手へと躍進します。さらに38周目に実施した2度目のピットストップまで、琢磨は18番手で走行しながら追い上げを試みました。レース中に他のマシーンと絡んだ琢磨は親指を負傷したものの、その後も力強く走り続けます。そして68周目に3度目のピットストップを終えると、そのままのポジションでチェッカードフラッグを受けました。

今回の結果は、琢磨が期待していたものとは大きく異なっていましたが、今季のインディ、テキサス、ゲートウェイなどでの健闘は、チームに多くの知識と経験をもたらしました。

なお、今シーズンの17戦を戦い終えた琢磨のベストフィニッシュはゲートウェイでの5位、ベストグリッドはデトロイトでの2番グリッド。そしてシーズンを通じ、トップ10フィニッシュを4回、トップ10グリッドを6回果たしています。


佐藤琢磨のコメント
「シーズン最終戦は本当に長い戦いとなりました！ スタートはとてもうまくいきました。レース戦略は、ドライバーによってマチマチでした。タイヤの特性のため、多くのドライバーが4ストップ戦略を選ぶいっぽう、僕たちは3ストップ戦略にこだわった影響で、ペースは上がりませんでした。しかも、僕はレース中に他のドライバーと絡んでしまいましたが、もともとケガをしていた僕の親指は、これで完全に骨折してしまいました。したがって、決していい1日ではありませんでした。それでも僕は懸命に走り続けました。今季、僕をサポートしてくださったすべての皆さまにお礼を申し上げます。デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRの51号車を担当してくれたメカニックたちと今年、ともに戦えたことを名誉に思っています。今日のレースでいい結果を残せなかったのは残念ですが、とても楽しかったですし、チームの一員として戦えたことをこのうえなく幸せに思っています」

（デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのプレスリリースより）

2022年9月10日、カリフォルニア州サリナス発。
本日行われたNTTインディカー・シリーズ第17戦ラグナセカの予選において、デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのNo.51 Nurtec ODT ホンダを駆る佐藤琢磨は22番グリッドを獲得しました。

グループ2から予選の第1セグメントに挑んだ琢磨は、1分12秒4489のベストタイムを記録して11番手となります。これは、第2セグメント進出までコンマ3秒ほど及ばないタイムで、またもや僅差で上位グリッド獲得を逃した格好となりました。

明日は正午からウォームアップを行なった後、現地時間の午後3時15分に決勝レースのスタートが切られます。

佐藤琢磨のコメント
「プラクティスで状況はどんどんよくなり、予選に向けて期待を寄せていたので、残念な結果に終わりました。また、僕たちはタイヤ・マネージメントに問題を抱えていて、この点でも思うようになりませんでした。トラフィックで苦しんだのも事実ですが、これは誰にとっても同じ状況なのでエクスキューズにはなりません。とはいえ、そういった様々な事情が影響したのは間違いありません。今回もタイム争いは僅差で、コンマ数秒で第2セグメントに進出するチャンスを逃しました。明日はグリッド後方から追い上げることになりますが、レースに向けてマシーンはいい状況に仕上がっているので、自信があります」

（デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRのプレスリリースより）