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イギリスF3選手権 第1戦 決勝 | 予選 |
An opening race 伝統の英国F3選手権は、今年も超激戦の予感で開幕を迎えた。Pre-Season Testから絶好調のAntonio Pizzonia(BRA)は、昨年のチャンピオンチームManor Motorsportからの参戦。Stewart Racingは EFDA-Euroseries チャンピオンのTomas Scheckter(RSA)と、昨年2勝を挙げたNarain Karthikeyan(IND)を起用し、シリーズタイトル奪回を狙う。National Classで激闘を繰り広げたF3職人、ご存知Martin O'Connell(GB)もAクラスへカムバック。F-Fordから大抜粋されたNicolas Kiesa(DK)はRC Benettonへ所属し、テストでもなかなか好調だ。Renault Promatecme UKにはMatthew Davies(GB)、そして僕のチームメイトには97/98のBritish F3トップランカー、Ben Colins(GB)が決定と、数え上げたら切りが無い。タフなシリーズになりそうだが、それは最高の舞台であることも意味している。 スラクストンは、英国一のアベレージスピードを誇る超高速サーキット。今年、新たに再舗装された路面のグリップは強烈そのもので、F3での平均速度は200km/hにも到達する。絶えず緩やかなロングコーナーで連続するレイアウトは、S字とシケインのみが唯一のブレーキングポイント。クルマは常にコーナリングし続ける為、タイヤには非常に過酷なサーキットである。ちなみにこのコースでのスロットル全開率はなんと90%!エンジンもまた非常に過酷な状況に置かされる。キーポイントは、低速トラクションの確保と、可能な限りのローダウンフォース化だ。 Provisional Pole Position イギリス特有の気まぐれな天候に、さらに拍車が掛かるウィルト地方、スラクストン。 この日も朝から不安定な天気が続いていた。そして予選開始直前、コース上空は真黒な雨雲に覆われ、突然シャワーのような雨が降り出した。いつもなら大好きな雨。しかし今日ばかりはドライコンディションで走りたかった。と言うのも、我々は開幕直前に行なわれたCroftでの合同テストをキャンセルしてまで、Pembreyサーキットでスーパーローダウンフォースの空力テストをしてきたからだ。 午前10時、30分間の予選1回目がスタートした。ブランニュー・ウェットタイヤを徐々に暖めながら、様子を見てペースアップして行く。コースは完全なウェット路面であるが、雨はもう止んでしまい、雲間からは日が差し込んでいる。まるで昨年のF-OPEL開幕戦、ドニントンパークのようだ。現段階ではフルウェットだが、このまま行けばファイナルラップがベストコンディションになることは明白である。 ドライであれば5速フルスロットルの高速コーナーも、ウェット路面ではそういうわけにいかない。雨のスラクストンはいつにも増してスリリングである。既に青空となった路面コンディションは刻々と変化していくが、クルマのハンドリングはなかなか良い。そして予選終了時刻まで10分を残して、遂にトップタイムを叩き出した。しかし、この時点ではまだまだ分からない。今アタックを続行すれば、タイヤはオーバーヒートしてしまうのだ。しばらくP1を維持するが、クーリングラップを挟む間にKiesaが0.002秒差でトップに踊り出る。ポジションはP2へ。しかし、この頃からタイヤの異常に気がついた。リアタイアがブロー気味になり、クルマはオーバーステアへと変わってきたのだ。無線でエンジニアに呼びかける「Boyo, What's time remain?」「4 minutes Taku.」残り時間から周回数を計算して、さらにタイヤにも気を配りながら、LAPを調整する。そして遂に残り1分を切り、最終アタックへ突入。ピットを横切る時に「Taku, that's a final lap. P3! P3!」とBoyoが無線で叫んできた。例の如くPizzoniaがトップタイムを叩き出したようだ。ちなみに先程までトップタイムだったKiesaは既にP7まで落ちている。「見とれー!」とばかりにコンセントレーションを高め、ラストチャンスにすべてを賭けた。路面はかなりグリップするが、リアタイアは今にもブレークしそうな勢いである。そして、スライドしながら最終シケインへ突入し、目一杯のトラクションを掛けながら脱出!コントロールラインを駆け抜けた!タイムは1分13秒312…「How was it, Boyo?」「Well done Taku! You got'em. P1!」暫定ポールポジション!あまりの嬉さに、ヘルメットの中で思いきり叫んでしまった。 Second Qualifying Session 午前中の予選終了後から、雨はパタリと止んでいたが、我々の予選2回目が近づくと、雨雲までもが一緒に近づいてきてしまった。こうなったら、ドライでもウェットでもどちらでも構わない。どうせ降るならヘビーレインを望む…。時計の針は午後4時をまわり、予選2回目がいよいよ始まった。例によって雨は上がってしまっていたが、コンディションはまたもやウェット。まずは様子見を兼ねて周回を重ねる。前座レースに組まれるミニが落として行ったオイルに、一瞬ヒヤリとさせられたが、タイムは意外と上がってきている。開始10分間はトップタイムを連発。2番手Pizzoniaに0.5秒近く差を付けたが、ペース上昇と共に、タイヤの発熱が深刻になってきた。「Boyo, Car is getting over steer. I wanna make sure rear tyre is sill fine...」「OK, Taku. Come in!」ピットへ戻ると、リアタイヤには予想通りブリスターが出来ていた。現在のラップタイムは1分12秒918で、P2だ。しかしタイミング悪く雨がまた降り出したので、チームはブランニューウェットタイヤを選択。再びコースインする。しかし午前中と違い、コースの水は予想以上に捌けていたようだ。十分な慣らしもできずにペースが上がった為、トレッド表面は一気に沸騰してしまった。新品のレインタイヤには状況が厳しすぎたようだ。しかも運悪く無線トラブルで、ピットとの交信は途絶えてしまった。タイムを再び1分12秒台へ乗せたことも、混乱を招いた。これで行けるものだと思い、クーリングラップとアタックを繰り返し、時間がどんどん無くなってしまった。ポジションはP3である。そして残り5分を切り、P5へ。焦りだしても、もう遅い。ファイナルラップに全てを賭けたが、ポジションは7番手まで急転落してしまった。なんという事だ…。周りの連中は、インターミディエイト的要素をもつ中古レインタイヤを使い、一気にタイムアップしてしまったのだ。使いこんだレインタイヤはセミウェットに強い。磨耗したブロックは剛性が上がり、硬化したゴムは発熱に強くなるからだ。ポールポジションを獲得したのはTomas Scheckter…最も負けたくない相手!クッソー!なぜ中古レインを選ばなかったのだ!本当に悔やまれる選択ミスだった。 The worst 決勝当日の朝、レディングの自宅から窓を覗くと、雲ひとつない快晴の青空が広がっていた。これは行ける!今までのレース経験で、これほどドライを望んだことは無かった。 ところが、スラクストンへ近づくにつれて、雲行きがまたも怪しくなってきた。そしてご丁寧にも、決勝30分前から雨が落ち始めた。なんでそうなん…?今回はことごとく天気から見放されている。しかし、雨は雨。むしろ7番グリッドからのレースならば有利ではないか…。次第に気は晴れ出したが、気ままなスラクストンの女神はまたもいたずらを始めた。なんと太陽が…最低である。どう考えてもスタートまでに乾くのは無理。と言う事はレーシングラインだけが乾く、最悪のコースコンディションではないか! ほとんどのマシンがスリックタイヤをつけて、スタート進行が始まった。ついにこの時が来た!イギリスF3である!嬉しくて嬉しくて、実はもうコースコンディションなど、どうでも良かった。グリーンフラッグが振られ、フォーメイションラップがスタート。しかし、これがまた滑る滑る!大変なレースになると予感した。そして久々のレーシングスタートだなぁ…と考えていたら、今度はなんと雹交じりの雨が突然降ってきたのだ!グリッド上ではウェットレースが宣告された。各チーム、キャンバー、ダンパー、ウィングなどを換え、慌しくウェットセティングが始まった。しかしうちのチームは動きがおかしい…。空を指差して何やらもめている。そして出された結果は…「Taku, go slick ya?」「………」確かに雨は止む方向に思えた。空も明るい。しかし…グリッド上でスリックタイヤを履いているのはカーリンの2台だけという、とんでもないことになってしまったのだ。 再びフォーメイションラップが始まり、これはコトだと悟った。それでも晴れることを願ってスタート!ウォータースクリーンが凄まじく、何も見えない!しかもスリックタイヤ!さらに、スタート直後にまた大雨が降り出したのだ!「Jesus Christ!」レースができる状態ではなかった。ストレートで360度ターンをお披露目。さらにシケイン前の最高速地点で、コントロールを失いもうひとつ360度スピン!これは恐怖さえ感じた。「Boyo! Impossible to drive! What's going on!」たまらずに叫んだが、それに対する応えは「Keep going Taku! More 2 laps, it will be stop rain!」…そういう問題かぁ???(笑) 何とかコースに留まり、懸命にドライブするが、5周目に早くもPizzoniaにラップされ、成す術なし。そのままラップリーダーたちにラインを譲ったところ、6周目の1コーナーでコントロール不能となり、僕のレースは終わった。 何故、7番手のポジションでギャンブルに出る必要があったのか?雨は得意である。雨の予選はポールだったのだ。なのになぜ…なぜ…?チームが僕を勝たせたかった気持ちはよく分かる。しかし、予選でタイヤ選択を失敗しているのに、決勝でまた勝負にでる必要はなかっただろう。どこへもぶつけられない怒りが込み上げてきた…。ほんとうに悔しくてたまらなかった。でも今は前に進むしかない。次回からはこの経験をしっかりと教訓に、また精一杯がんばりたい。雨が降ったらレインタイヤ!である。 2000年3月28日 佐藤琢磨 |
イギリスF3選手権 第1戦決勝 | |||||
POS | NO | DRIVER | NAT | CAR | TIME |
1 | 01 | Antonio PIZZONIA | BRA | Dallara F300 Mugen-Honda | 30:52.035 |
2 | 04 | Tomas SCHECKTER | RSA | Dallara F300 Mugen-Honda | 30:53.225 |
3 | 03 | Narain KARTHIKEYAN | IND | Dallara F300 Mugen-Honda | 30:56.419 |
4 | 05 | Matthew DAVIES | GBR | Dallara F300 Renault | 31:10.507 |
5 | 06 | Andy PRIALX | GBR | Dallara F300 Renauit | 31:14.112 |
6 | 11 | Milos PAVLOVIC | YUG | Dallara F300 Spiess-Opel | 31:21.857 |
7 | 08 | Gianmaria BRUNI | ITA | Dallara F300 Mugen-Honda | 31:25.499 |
8 | 12 | Nicolas KIESA | DEN | Dallara F300 Spiess-Opel | 31:26.664 |
9 | 61 | Gary PAFFETT | GBR | Dallara F398 Renauit | 31:29.845 |
10 | 15 | Westley BARBER | GBR | Dallara F300 Mugen-Honda | 31:37.743 |
Retirement | 09 | Takuma SATO | JPN | Dallara F300 Mugen-Honda | ― |
イギリスF3選手権 第1戦予選 | |||||
POS | NO | DRIVER | NAT | CAR | TIME |
1 | 04 | Tomas SCHECKTER | RSA | Dallara F300 Mugen-Honda | 1:12.421 |
2 | 01 | Antonio PIZZONIA | BRA | Dallara F300 Mugen-Honda | 1:12.502 |
3 | 06 | Andy PRIALX | GBR | Dallara F300 Renauit | 1:12.514 |
4 | 07 | Michael BENTWOOD | GBR | Dallara F300 Mugen-Honda | 1:12.742 |
5 | 05 | Matthew DAVIES | GBR | Dallara F300 Renault | 1:12.810 |
6 | 03 | Narain KARTHIKEYAN | IND | Dallara F300 Mugen-Honda | 1:12.918 |
7 | 09 | Takuma SATO | JPN | Dallara F300 Mugen-Honda | 1:12.986 |
8 | 17 | Martin O'CONNELL | IRL | Dallara F300 Mugen-Honda | 1:13.211 |
9 | 61 | Gary PAFFETT | GBR | Dallara F398 Renauit | 1:13.257 |
10 | 12 | Nicolas KIESA | DEN | Dallara F300 Spiess-Opel | 1:13.320 |