またもトラブルに襲われる
計2戦に出場する“佐藤琢磨のFIA世界耐久選手権(WEC)参戦プログラム”の2戦目は、初戦とあまり代わり映えのしない展開となり、ベルトラン・バゲットとドミニク・クライハマー、そして琢磨の3人はマシーン・トラブルで大きく遅れることとなった。
ふたつの遅れ——うちひとつはかなり長時間に及ぶもの——により、HPDエンジンを搭載したOAKペスカローロは上海6時間レースを総合14位、クラス7位で終えた。そして、こちらも富士のときと同じように、ラップタイムの面でもLMP1クラスのライバルたちにやや差をつけられてしまった。
今回、金曜日のフリープラクティスで最初にステアリングを握ったのは琢磨だった。なぜなら、BARとスーパーアグリのマシーンを駆って中国GPを戦ったことのある琢磨だけが、上海サーキットを走った経験を持っていたからだ。「富士のときのように、まるまる1日を使ってのテスト・セッションは用意されませんでした」と琢磨。「したがって、3人のドライバーが走り込むには時間が不足していました。いっぽう、3人のなかでは僕だけが上海サーキットを走った経験があったので、僕がマシーンに飛び乗り、当初の基本セットアップを行なうこととなりました」
「多く曲がり込んだコーナーがいくつもあって、そのなかにはチャレンジングなものも少なくない上海サーキットは、ユニークで素晴らしいコースです。ただし、僕たちはコーナーの半ばでひどいアンダーステアに見舞われるとともに、スタビリティにも問題を抱えていました。今回は、富士のときに近いローダウンフォース・パッケージで走行しましたが、ここでは大きなダウンフォースが必要なのです。スピードトラップでの速度は素晴らしい数値でしたが、僕たちはコーナーで苦しむこととなり、与えられた環境のなかで精一杯努力する以外に道はありませんでした」
土曜日のプラクティスで状況はいくぶん改善されたが、ここで雨が降り始める。ところが、ローダウンフォースでウェットコンディションを走ったにもかかわらず、琢磨はコース上でいちばん速いドライバーとなったのである。「このようなコンディションで、僕たちのマシーンに装着したダンロップ・タイヤは素晴らしい性能を発揮してくれました。コースがチョイ濡れのとき、僕たちはカット・スリックを使いましたが、本当に最高でした。アウディやトヨタといったワークスチームより速いうえ、とても安心して走れたのです。マシーンとタイアの性能はとても印象的でした。僕と同じようにイギリスF3を戦ったドライバーたちで集まり、冗談を言い合いました。「なにしろ、昔はよくこういうコンディションでレースをしたからね!」と……。ニコラス・ミナシアンもそのなかのひとりでした! こういうコンディションが僕はずっと好きだったし、できれば予選と決勝もウェットになって欲しいと思っていましたが、残念ながら僕たちは運に恵まれませんでした」
「日曜日のウォームアップに向けてさらに変更を行いましたが、濃い霧のため、その効果を確認することはできませんでした」
スタートドライバーを務めたクライハマーが1スティントを終えたのに続き、琢磨は2スティントを受け持った。「ドミニクはすぐにバランスに問題を抱えるようになりました」と琢磨。「コーナーの進入ではオーバーステア気味で、トラクション不足に苦しみました。このときは、予選で使用したタイアを装着していたので、ハードコンパウンドに交換すれば状況は変わるだろうと期待していました。けれども、僕が乗り込んでからもマシーンは扱いづらく、スタビリティの面でも大きな問題を抱えていました」
「それでもタイアが新品に近いときは何とかなりましたが、タイア交換を行なわずに燃料を満タンにして走行するダブルスティントの後半では、ひどいデグラデーションを経験しました。僕のペースはひどく落ち込んだので、予定よりも早めにピットストップを行なうことになりました。さらに、フロント・ブレーキの状態はどんどん悪化していき、バイブレーションも起き始めます。それらは僕がドミニクからステアリングを引き継いだときにはすでにひどい状態となっていたものです。ダブルスティントの前半ではプライベティアが走らせるマシーンの1台に追いつきつつあったので、これには勇気づけられましたが、それでもペースはどんどん落ち込んでいきました」
このため琢磨は早めのピットストップを行い、バゲッティと交代したが、ベルギー人ドライバーが担当したスティント中に大きな遅れを喫し、LMP1クラスでの順位を大きく落とすこととなった。「コースコンディションはどんどん良くなっていったのに、ベルトランも同じ症状に苦しみ、ブレーキに対する不満を口にしていました。そして、彼のスティントの中ほどでフロントのディスクブレーキが壊れたため、ピットに戻って修理を行なうこととなりました」
「ブレーキを修理している間に僕たちはセットアップを変更し、ダウンフォースを増やしたところ、これ以降、クルマはまったくの別物になりました。最後のスティントで、ドミニクはブレーキダクトのトラブルにも見舞われましたが、フレッシュタイアを履いているとき、彼は素晴らしいラップタイムをマークしました。僕たちのマシーンが本来のペースを取り戻したのは喜ばしいことでしたが、週末がトラブル続きとなったことは残念でした」
最後の最後で、プライベートクラスのトップ争いをしていたレベリオン・レーシングのローラ・トヨタがリタイアしたため、琢磨、バゲッティ、クライハマーの3人は、富士よりもひとつ上のクラス7位でフィニッシュすることになった。「チームにとっては難しい週末でしたし、上位争いを演じられなかったのは残念でした。けれども、多くの優秀なドライバーたちや古い友達とともに戦うWECのレースは楽しいものでした。OAKレーシングのみんなには心からお礼を申し上げます。特に、WECレースに参戦する素晴らしいチャンスを僕にくれたジャック・ニコレとセバスチャン・フィリップには深く感謝しています。もしも機会があれば、僕は喜んで戻ってきますよ。でも、そのときはもっとコンペティティブだといいですね!」
もっとも、今週末はチーム無限のスイフト・ホンダを駆り、鈴鹿で開催されるフォーミュラ・ニッポンに参戦する琢磨は、ここで素早く気持ちを切り替えなければならない。ちなみに、琢磨が鈴鹿でレースを戦うのは、スーパーアグリから挑んだ2006年日本GP以来のこととなる。「デモンストレーション・レースには何度か出場しましたが、ふたたび鈴鹿で本格的な競技に挑めるなんて、本当に素晴らしいことだと思います。プロトタイプスポーツカーに比べると、コックピットはかなり小さく、幅も狭くなりますが、軽量でダウンフォースが大きなマシーンは本当に速く感じられるはずです」
「上海に向かう前、チーム無限の本拠地である朝霞で有意義なミーティングができたので、鈴鹿のレースを心待ちにしています。ファンの皆さんにとっても、きっと盛り上がるイベントになりますよ!」
written by Marcus Simmon