自動車ライターの大谷達也です。TCMには毎年ゲストとしてお邪魔しておりましたが、今回は琢磨君がインディカー・シリーズに参戦して10年目の記念すべきイベントだというのに、訳あってお休みさせていただきました。そこでGAORAの放送で拝見したTCMの印象をしたためてみましたので、どうか最後までお付き合いください。
2019年もTCMのハイライトはビデオを使ったレースシーンの振り返りだったけれど、まあ琢磨君の解説は本当に上手ですね。これを聞くか聞かないかではレースの理解が全然変わってくる。景色がまるで違って見えるといってもいいくらい。こういうコメントの的確さは昔から変わらないんだけれど、今回観ていて思ったのは琢磨君、ビデオの尺にあわせて喋るのがうまくなりましたね(笑)。どのレースも映像が終わるところでぴったりとコメントが収まる。すごいわ。この人、本当にレーシングドライバーが本職でしょうか?(笑)
それにしてもレースのアグレッシブな戦い振りは昔とまったく変わらず。しかも、インディカー・シリーズを戦うなかで培ってきた“リスクを最小限に抑える勝負強さ”がバツグンに光ってましたね。おかげで安心して観ていられました。ベテランの味わいです。
2019年も印象に残るレースがいくつかありました。それを振り返る琢磨君のコメントも素晴らしかった。ポールポジションを獲りながらピットストップでアクシデントを起こしてしまったテキサスでは、勝てるレースを落とした悔しさを語るのではなく、「仲間であるメカニックを傷つけないためにはどうすればいいか?」を第一に考えて翌年の戦い方について語るあたりにも琢磨君らしさが表れていると思いました。
それはセントルイスでの優勝についてもまったく同じ。レース後に喜ぶクルーが映ったシーンでは「この人たちですよ、僕を救ってくれたのは。そしてファンのみなさん」とコメント。周囲の人に支えられながらレースを戦っているという感謝の気持ちが、これほど明確に表れた言葉もそうそうありません。
そしてイベント終盤に紹介された「インディカー・シリーズ10年間の歩み」。こうやってスライドで振り返ってみると、レースシーンのひとつひとつに僕たちの思い出がこもっていることを再発見します。そして2017年インディ500のフィニッシュ後に琢磨君が叫んだ「ワーッ!」という言葉。あの声を聞いただけで、また感動が甦ってきます。さらには、そうした思い出のひとつひとつを優しく包んでくださった飯島玄麒さんのピアノの音色。琢磨君も思わず涙ぐんでいましたね。
こうして観てみると、琢磨君はただ自分のためにレースを戦っているのではなく、みんなとともに戦い、そして成績だけでなくたくさんの思い出と記憶を残してくれていることに気づいて驚きます。
レースを通じて感動と思い出を紡ぎ出す男。それが佐藤琢磨なんですね。
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