Report
みなさん、こんにちは。いつもTCMにお邪魔している自動車ライターの大谷達也です。
例年は年末に開催されているTCMが、2023年は中止すると発表されたのが昨年10月のこと。いったい何があったのかとハラハラされた方も少なくなかったでしょうが、無事に去る3月16日に開催されたので、当日の模様をここでリポートしましょう。
会場は、東京・広尾駅近くにあるブリヂストン グローバル研修センターの立派なホール。広さは、いつもの山野ホールよりいくぶん狭めですが、その分、ファンのみなさんと琢磨クンの距離がぐっと近づいて、ライブ感が強まったような気がしました。
「みなさーん、こんにちは。例年は年末にTCMに参加してあとは年越しという方も少なくなかったと思いますが、去年はキャンセルしてしまったことを本当にお詫び申し上げます」
川崎かおりさんの紹介でステージに登場した琢磨クンは、開口一番、そんなお詫びのことばを口にしました。
この施設は、ブリヂストン社内の研修会が行われるだけでなく、eスポーツ用のシミュレーターもあって、琢磨クンもそこに一度お邪魔したことがあるとか。琢磨ファンならずとも、モータースポーツファンであればいつかはお世話になるかもしれない場所といえそうです。
琢磨クンの挨拶のあとで、私が呼び込まれて、毎年恒例のビデオを使った昨シーズンの振り返りが始まりました。
ご存じのとおり、チップ・ガナッシ・レーシングに移籍した昨シーズンはオーバル・コースのみの参戦だったので、ビデオで紹介されたレースの数は例年より少なめ。でも、それだけに1レース、1レースをジックリ琢磨クンに解説してもらえたのは嬉しかったですね。
たとえば、琢磨クンにとっての実質的な第1戦となったテキサスでは、ウィル・パワーにターンのアウト側に押し上げられるような格好になったあと、なんとはなしにコンクリートウォールに接触してリタイアとなりましたが、その背景となった事情をじっくりと説明してもらうことで「あー、そういうことだったんだ!」と納得できたように思います。
そして肝心要のインディ500では、レース序盤から10番手前後を走行したあと、中盤にはちょっとしたことをきっかけにして順位を落としてしまいましたが、チェッカー間際のリスタートでは怒濤の追い上げで7位フィニッシュ! あのとき、コースコンディションはどうだったのか、エアロセッティングはどうだったのか、というあたりを琢磨クンは事細かに解説。それを聞いたファンの皆さんも「やっぱりインディは難しいなあ」と再確認されていたようです。
で、そんな調子で第15戦ゲートウェイまで振り返ったところでダイジェスト・ビデオは終了しましたが、ここからが今回の特別企画で、2023年シーズンオフ・ビデオが紹介されました。しかも、それらはどれも、琢磨クンがかぶったヘルメット内に仕込まれた超小型カメラで撮影された映像で、いわば琢磨クンの視点そのもの。そんな特別なビデオを立て続けに披露してくれるというのだから、なんとも贅沢ではありませんか。
その第1弾は、昨年の12月3日にモビリティリゾートもてぎで行なわれたHonda Thanks Dayの模様。このとき、琢磨クンは2020年インディ500のウイニングマシーンを走らせたのですが、その際のオンボード映像がたっぷりと紹介されました。2020年のインディ500といえば、新型コロナウィルス感染症の影響により無観客で行なわれたレース。つまり、そのウィニングカーが走る姿を見たファンは残念ながらひとりもいなかったわけで、もてぎでは、この感動的なシーンがたくさんのお客さまのまえで再現されたのです。しかも、このマシーンを走らせるためにレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのスタッフがわざわざ来日してくれたというのだから、たまりません。琢磨クンの解説もいつになく力がこもっていて、当日の熱い感動が伝わってくるかのようでした。
オフシーズン・ビデオの第2弾は、2024年から投入されるホンダ・レーシング・スクールカーのスクールカーを琢磨クンが操ったときの映像。その開発には琢磨クンも関わったというだけあって、完璧に乗りこなしている様子が手に取るようにわかりました。しかも、琢磨クンはここでも全開走行! 2コーナーのブレーキングで軽くカウンターステアをあてるドライビングで私たちを魅了したのです。
なんでも、以前のスクールカーは安全のため強めのアンダーステアに仕立ててあったのですが、「それではステップアップしたあとで役に立たない!」と琢磨クンが主張。よりニュートラルに近いハンドリングに仕上げられたそうです。だからこそのカウンターステアだったわけですが、スクールカーでも実戦重視の姿勢を崩さないのは、やっぱり琢磨クンらしいなあと思った次第です。
そして秘蔵映像の第3弾、これは本当の秘蔵中の秘蔵でした。2023年スーパーフォーミュラの最終戦で、琢磨クンと中嶋一貴さんが2024年デビューのニューマシーンでデモ走行したことは、ずいぶんニュースになったのでみなさんもご存知ですよね?それで、そのときふたりで突然、コースを逆走したことも話題になりましたが、なんと、そのときの映像を初公開してくれたのです。
まあ、このときはバツグンに面白いエピソードがたくさん披露されたのですが、さすがにそれは、ここには書けないなあ(笑)。まあ、琢磨クンのイタズラ心が炸裂したというか、こんなデモ走行でも一切手を抜かずに走って一貴さんをぶっちぎっちゃうとか、そんな話題が立て続けに紹介されたので、会場は本当に爆笑の渦に包まれました。
さて、秘蔵映像の紹介に続いては、TCM初の試みとして琢磨クンの2024年レース参戦に関する“模擬”記者会見が開かれました。最初に、琢磨クンから2024年はインディ500のみにレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングから参戦することを発表。続いて、観客席に座っていた私と松本浩明カメラマンによる代表質問が行なわれたのです。
私の質問は、「レイホールを選んだ決め手は?」と「ガナッシとレイホール、勝つ確率はどっちが高い?」の2問。1問目について琢磨クンは「お金です!」とジョークをぶちかましたあと、「レースで勝つにはエンジニアとのコミュニケーションが重要」といつものように説明。2024年のインディ500では旧知のエディ・ジョーンズがエンジニアを務めることが大きな理由のひとつであると教えてくれました。そして「どちらのチームが勝つ確率がより高いか?」の質問には「いつでも僕は(勝つ確率を)フィフティ・フィフティだと思っている」と回答。そのうえで、レイホールのほうが自分でコントロールできる余地がより大きいことが重要と説明したのです。
続く松本カメラマンの質問は「インディ500の挑戦は今年で15回目。ぶっちゃけ、あと何回挑戦するつもりですか?」という、まさに日ごろから親しい松本カメラマンじゃなければ聞けないストレートな質問。これに対して琢磨クンは「もしも3勝目できたら、当然4勝目を狙うでしょうという話になるし、もしも勝てそうで勝てなかったら『このままでは辞められない!』といって翌年も戦うはずなので、少なくともあと2年は走ります!」と宣言。会場を大いに沸かせたのです。
ここからは会場からの質問を受け付けたのですが、ここでも鋭い質問が次々と飛び出しました。
最初の質問は「昨年のインディ500では、シボレーに対してホンダが苦戦していたのではないか?」というもの。これに対する琢磨クンの回答は「たしかに結果だけ見るとそう思えるかもしれませんが、かつてのHPDで、今年からHRC-USと呼ばれることになったホンダのメンバーは、逆境に立たされると燃え上がるというこれまでの経緯があるので、今年はきっと期待していいと思います」と回答。会場から熱い拍手を受けました。
最後は男の子からの質問。「家族や友達が僕の支えですが、琢磨さんの支えはなんですか?」 うわー、たまりませんね、この質問。ステージに立っていた川崎かおりさんも驚いた表情をしていましたが、琢磨クンは「常に心の拠り所となってくれる家族はすごく大事」と切り出したあとで、2019年のポコノで起きた悲しい事件について紹介。自分が正しいと思っていても、世間から広く非難される辛い経験をしたけれども、このときも家族や友人、さらには次のレースの応援にきてくれたファンに励まされて立ち直ったと話してくれました。さらにこのレースで琢磨クンは優勝し、世間の見方も180度変わったのですが、これによって「自分が正しいと思うことを挑戦し続ける。そして、それを応援してくれる人を大切にしなければいけないと思いました」と締め括ったのです。いい話ですなあ。
続いては、これも恒例の抽選会とジャンケン大会を実施。今年もキャップが17点、ポロシャツとシャツが計4点、ヘルメットバイザーが1点、レーシングチームウェア(ジッパー/ジャケット/アウター)が各1点をプレゼントするという気前のよさ。しかも、その大半は琢磨クンが着用したものというのも、ファンにとっては嬉しいところでしょう。
そして最後は握手会。これはもう、コロナ禍の間はずっと開催できずにいたものなので、ファンのみなさんにとっては4年振り?のプレゼントですよね。もちろん、琢磨クンのサインカードも配られたし、記念撮影もOKということで、大いに盛り上がりました。
イベントが始まる前は「モータースポーツ・シーズンが開幕した直後の開催はどうなの?」なんて意見がなきにしもあらずだった今年のTCMですが、終わってみれば内容は盛りだくさんだったし、ファンのみなさんと琢磨クンの距離は近いし、琢磨クンと接する機会もたっぷりあったりで、どうやら大好評だった様子でした。
今年は、まだどういう形で開催するのかをいま検討中のようですが、みなさんとまたお目に掛かることを楽しみにしています。おっと、その前に、インディ500に挑戦する琢磨クンを全力で応援しないといけませんね! みなさん、今シーズンもよろしくお願いします!!